胎盤は、異物であるマウス胎児が子宮内膜に着床を契機として、創傷治癒過程に修飾が加えられて形成される特殊臓器という見方ができる。創傷治癒過程に関与が想定される培養細胞(皮膚線維芽細胞)を用いて、NKG2Dリガンドの発現誘導因子の特定を行った。マウス皮膚線維芽培養時に亜ヒ酸ナトリウムによって酸化ストレスを加えると、NKG2Dリガンドの一つであるRae-1の発現が誘導された。 トロホブラスト初期培養株は、トロホブラスト細胞株(腫瘍由来)に比べて、虚血操作を加えた実験の遂行が困難であり、上述の結果を再現し、確認するには至らなかった。これを代替するため、in vivoで皮膚創傷モデルを用いた検討では、NKG2D欠損マウスにおいて虚血局所に炎症の遷延が確認された。このことから、NKG2D陽性細胞が、局所的な炎症の修飾に関与していることが示唆された。 胎盤局所では、NKG2Dを阻害したことによるuNK細胞浸潤数の変動は認められなかった。一方で、サイトカイン産生(特にIFNγ)に変動が認められるとともに、トロホブラストの浸潤様態に変化が認められた。すなわち、トロホブラストが脱落膜深部の血管に浸潤することにより、胎盤の血行動態を調節していると考えられた。局所的な酸化ストレスが胎盤形成に影響を与える過程へのNKG2Dシステムの関与については、引き続き酸化ストレス可視化マウス(OKD-lucマウス)や酸化ストレスモデル(Keap-1 遺伝子ノックアウトマウス)を用いた確認が望まれる。
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