多価不飽和脂肪酸は必須脂肪酸であり、卵子の核成熟から胚発育までのエネルギー源として利用されることから、卵胞液中濃度は卵子・胚の質の指標となる可能性がある。本研究はIVF- ETにおける受精や胚の質と卵胞液内の多価不飽和脂肪酸濃度との関連について明らかにすることを目的とした。2015年8月~2017年12月にIVF-ETの適応があり、本研究に文書同意の得られた28例について、採卵日に血清と卵胞液内の多価脂肪酸分画をGas-chromatograph法により測定した。卵胞液は、主席卵胞から順に6個の卵胞からそれぞれに2mlずつ採取した。卵胞ごとに、脂肪酸濃度と受精の成否・胚の質との関連を解析した。良好胚はGardner分類の3BB以上とした。本研究は本学臨床研究倫理審査委員会の承認を得た。結果として、140の卵胞液について22種の脂肪酸をそれぞれ測定した。ドコサテトラエン酸とエルシン酸の血中濃度と卵胞液濃度に差を認めなかったが、それ以外の15の多価不飽和脂肪酸の卵胞液中濃度は血清中濃度の約1/3で有意に低値を示した。受精卵の得られた卵胞液と未受精卵であった卵胞液を比較するとn-6系多価不飽和脂肪酸であるリノール酸は228.7ug/mlと247.6ug/ml(p=0.03)、アラキドン酸は73.8ug/mlと80.9ug/ml(p=0.03)で、有意に前者で低値を示した。同様にn-3系多価不飽和脂肪酸であるリノレン酸、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸(DHA)もそれぞれ有意差をもって受精卵の得られた卵胞液において低値を示した。胚の質に関しては、卵胞液中濃度に有意差を示したものはなかった。結論として、多価不飽和脂肪酸肪酸は受精過程重要な役割を果たしていることが推察される。
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