研究課題/領域番号 |
16K11105
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研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
長島 隆 杏林大学, 医学部, 講師 (40338116)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 常位胎盤早期剥離 / 子宮特異的 / ノックアウトマウス / BMPR2 / BMP4 / BMP7 / 脱落膜化 / 妊孕性低下 |
研究実績の概要 |
研究代表者は、BMPR2を子宮特異的に欠損するマウス(Bmpr2 cKO)が常位胎盤早期剥離を来すこと、BMP蛋白に分類されるBMP4とBMP7が妊娠子宮におけるBMPR2のリガンド候補蛋白であることを明らかにしている。本研究は、全組織でBMP4またはBMP7を欠損するマウス(Bmp4 KOとBmp7 KO)は胎生致死であることから、子宮特異的に同BMP蛋白を欠損するマウス(Bmp4 cKOとBmp7 cKO)を作成し、表現形を解析することで、常位胎盤早期剥離の発症メカニズムを解明し、革新的な新規治療法を開発することを最終目標としている。 本年度は、成熟ペプチドが存在するBmp4のエクソン4にfloxサイトを組み込んだマウス(Bmp4 flox/flox)と、シグナルペプチドが存在するBmp7のエクソン1にfloxサイトを組み込んだマウス(Bmp7 flox/flox)を、プロゲステロン受容体と同じ分布でCreを発現するマウス(Pgr cre/+)と交配させることで、Bmp4 cKOとBmp7 cKOを作成した。Bmp4 cKOは極度の妊孕性低下を示したが、卵胞発育や排卵などの卵巣機能、ならびに受精卵の着床には異常を認めなかった。しかし、着床後の妊娠子宮において経時的な重量減少を示し、妊娠の維持に必須である子宮内膜の脱落膜化が機能不全を来していた。Bmpr2 cKOも脱落膜化の機能不全を呈することから、BMP4は脱落膜化に必須であると考えられた。現在、マイクロアレイにて網羅的に遺伝子発現の変化を解析中である。 次年度は、同解析結果を基に分子生物学的手法を用いて、BMP4-BMPR2が関与する、常位胎盤早期剥離の治療標的因子となり得るシグナル伝達経路の解明を目指す。なお、Bmp7 cKOは妊孕性を確認中であり、妊孕性の異常が確認され次第、表現形を解析していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の開始前において、既にBmp4 flox/floxマウスとPgr cre/+マウスを米国のJackson Laboratories社から得ていたため、研究開始の早い段階で、Bmp4 cKOマウスとそのコントロールマウス(Bmp4 Ctrl)の作成を開始することができた。よって、Bmp4 cKOマウスとBmp4 Ctrlマウスの妊孕性を確認するため、正常な生殖機能を有することが確認された自然型の雄マウスと半年間同居させる繁殖試験を、実験開始から3ヶ月後の7月より行うことが可能であった。半年間の繁殖試験によって、Bmp4 cKOマウスが極度の妊孕性低下を示したことから、繁殖試験開始から5ヶ月後の12月より、表現形の解析を通じて妊孕性低下の原因を検討し始めた。その結果、本年3月までの間に、子宮内膜の脱落膜化が機能不全に陥ることによって、Bmp4 cKOマウスが極度の妊孕性低下を来すことを明らかにした。しかし、マウスの繁殖率が当初の想定よりも低く、実験に供することのできる十分な数のBmp4 cKOマウスとBmp4 Ctrlマウスを確保できなかったため、脱落膜化の機能不全がどのようなシステムの異常によって生じるのか、予定していたメカニズムと介在因子の同定を、本年度までに終えることができなかった。 一方、Bmp7 flox/floxマウスは、輸送に必要であるMTA(Material Transfer Agreement)の手続きに想定以上の時間がかかり、研究協力者であるイリノイ大学シカゴ校からの輸送が当初の計画よりも遅れて9月となったことから、繁殖試験を12月から開始した。よって、まだ妊孕性の確認を行っている段階であり、BMP7の子宮内における機能を解析し、BMPR2やBMP4との関連、ならびに常位胎盤早期剥離の発生機序との関連を明らかにする実験を、開始するまでには至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
Bmp4 cKOマウスの表現形解析を次年度前半に終えて、マウスの脱落膜化子宮を用いて、マイクロアレイによる網羅的な遺伝子発現解析を行う。その上で、既に得ているBmpr2 cKOマウスのマイクロアレイによる解析結果と比較検討することで、BMP4-BMPR2に関与するシグナル伝達経路を解明する。その後、Real-Time PCR、Western Blotting、免疫組織染色など、複数の実験手法を用いて解析結果の確認を行う。同解析により得た知見をもとに、次年度後半には、Bmp4 cKOマウスの脱落膜化不全が、どのようなメカニズムにより生じているのかを検討し、常位胎盤早期剥離の発生機序との関連を明らかにする。一方、Bmp7 cKOマウスは、妊孕性確認を目的とした繁殖試験を終えたのち、Bmp4 cKOマウスと同じ表現形解析とマイクロアレイによる遺伝子発現解析を行い、同様の手法で解析結果の確認を行う。その後は、Bmp4 cKOマウスとBmp7 cKOマウスの解析により得た情報をもとに、常位胎盤早期剥離の治療標的因子となり得るシグナル伝達物質の候補因子をピックアップする。 候補因子の絞り込みは、遺伝子クローニング技術によりBMPR2に識別蛋白質のTagを結合させた複合蛋白質を作成し、妊娠子宮の蛋白分画と混合し免疫沈降を行うことで、BMPR2と結合した未知のシグナル伝達物質を精製することから開始する。最終的には、精製後のシグナル伝達物質を、2次元電気泳動、核磁気共鳴法、質量分析法、Two-Hybrid法などで同定し、前述のピックアップされた候補因子のリストと照合することで、治療標的因子を最終決定する。 次々年度は、同定した治療標的因子に対する誘導的な遺伝子制御ベクターを作成し、常位胎盤早期剥離に対するベクターの有効性と安全性を確認することで、最終目標である革新的治療の創造に結びつける。
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次年度使用額が生じた理由 |
Bmp4 cKOマウスとBmp4 Ctrlマウスの繁殖率が当初の想定よりも低く、実験に供することのできる十分な数のBmp4 cKOマウスとBmp4 Ctrlマウスを確保できなかったため、脱落膜化の機能不全がどのようなシステムの異常によって生じるのか、予定していた分子生物学的手法を用いた解析を施行できなかった。さらに、Bmp7 flox/floxマウスの輸送に想定以上の時間がかかり、Bmp7 cKOマウスとBmp7 Ctrlマウスの作成が遅れ、妊孕性確認を目的とした繁殖試験の開始を12月から開始することになった。よって、まだBmp7 cKOマウスの妊孕性変化を確認できていない状況であり、本年度内に始める予定であった表現形の解析に着手できていない。以上の理由により、本年度予定していた使用額を次年度に持ち越すこととなった。
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次年度使用額の使用計画 |
Bmp4 cKOマウスの表現形解析をもとに行った、マウスの脱落膜化子宮を用いたマイクロアレイによる網羅的な遺伝子発現解析に対し、Real-Time PCR、Western Blotting、免疫組織染色など、複数の分子生物学的手法を用いて、得られた結果の確認実験を行う必要がある。よって、これらの確認実験を行うために使用する。さらに、本年度に行う予定であったBmp7 cKOマウスの表現形解析が次年度にずれ込んだため、この解析にも使用する。常位胎盤早期剥離の治療標的因子となり得るシグナル伝達物質の探索には、複数のTag配列を挿入したプラスミドベクターを作成し、このベクターの中にマウスBmpr2配列を挿入したのち動物細胞内へ導入することで、BMPR2の複合蛋白質を作成・精製する必要がある。このベクターの作成と動物細胞への導入、ならびにBMPR2複合蛋白質の作成と精製にも使用する予定である。
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