研究課題/領域番号 |
16K11108
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
升田 博隆 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (80317198)
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研究分担者 |
丸山 哲夫 慶應義塾大学, 医学部, 准教授 (10209702)
内田 浩 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (90286534)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 子宮内膜症 / 上皮間葉転換(EMT) |
研究実績の概要 |
子宮内膜症(内膜症)は良性疾患ながら癌に特徴的な浸潤や転移を起こすことから、その機構には癌と同様に上皮間葉転換(EMT)の関与が考えられる。しかし、内膜症に特徴的なEMTマーカーの報告はなく、内膜症の各病態におけるEMTの評価の報告もない。そこで、正所性子宮内膜および内膜症の各病態におけるEMTの詳細な評価を行った。 同意を得た内膜症患者の内膜症性嚢胞、深部病変、腹膜病変、子宮腺筋症、子宮内膜および非内膜症女性の子宮内膜を検体とした。非内膜症群の子宮内膜上皮細胞を分離・培養しEMT誘導前後でのタンパク発現をWestern blotにより比較した。全検体でのEカドヘリン(Ecad)、Nカドヘリン(Ncad)、ビメンチン(Vim)、EMT関連転写因子(Snail、ZEB1)に対する免疫染色の結果をスコア化し比較解析した。また、内膜症患者の術前血清CA125値をZEB1陽性群と陰性群で比較した。 EMT誘導実験ではEMTに特徴的なカドヘリンスイッチ現象を認めた。免疫染色のスコア化ではNcad、Vim、Snail、ZEB1それぞれの発現について病態間で有意差を認めた。特にZEB1は内膜症の有無を問わず子宮内膜上皮では発現せず内膜症病変の上皮で発現し、同一患者内でも浸潤性が高い病変で強く発現していた。また、NcadとSnailの病態間発現パターンが類似する点、Vimの発現は内膜症性嚢胞で最も低く、非内膜症群に比べ内膜症群の子宮内膜で有意に高い点、Ecadは病態間で発現の有意差はないが、浸潤性の高い病変では飛び石状の発現を認める点が特徴的であった。ZEB1陽性群の血清CA125値はZEB1陰性群に比べ有意に高かった。 以上より、子宮内膜上皮細胞はEMTを起こし得ることが分かった。EMTマーカーの中で唯一ZEB1だけが内膜症に特徴的なマーカーであった。また、各病態でのEMTの状態が異なることが初めて明らかとなり、各病態における構成細胞の性質が異なり、発症や進展の過程も異なる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年までは、ほぼ順調に行われてきた計画であるが、昨年より開始した「【2】子宮内膜幹細胞の上皮性・間葉性変化の解析」については、子宮内膜幹細胞の分離自体が検体不足により滞っている。その理由としては、まず子宮内膜幹細胞と考えているSide Population 細胞(SP細胞)が全内膜細胞の1-2%にとどまるため、分離には多数の子宮内膜細胞が必要であり、子宮内膜の生検程度の量では実験可能な細胞数を確保できず、子宮全摘からの正常子宮内膜供給が必要である。しかし、近年の内視鏡手術の普及により、術前にGnRHアゴニスト使用した子宮全摘症例が急増しており、検体供与対象患者が減少していることが検体不足の理由である。
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今後の研究の推進方策 |
子宮内膜幹細胞についての研究は、研究計画当初に予定していたような検体数が確保できないので、nが少なくなる分実験系を増やすことで、信頼性を確保する。また、今回報告したように、子宮内膜症病変の上皮についてのEMT研究が順調に進んできた一方で、業績欄にあるように、子宮内膜上皮前駆細胞がEMTマーカーを発現していることが分かったので、子宮内膜上皮細胞と子宮内膜幹細胞のかかわりを中心に解析を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
未使用額の発生は効率的な物品調達を行った結果である。適宜必要な消耗品等に充てていく。
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