研究課題
以前我々の研究グループが樹立した自己抗体由来の抗マウス精子単クローン抗体Ts4は、バイセクト型N-アセチルグルコサミン(bisecting GlcNAc)構造を有するフコシル化二本鎖複合型糖鎖を介して複数の糖タンパク質を認識している。本抗体は成熟精子以外に、性成熟後の精巣内の精母細胞・精子細胞及び初期胚に反応し、その対応抗原は成熟精子ではヘパラン硫酸分解酵素であるα-N-アセチルグルコサミニダーゼ(分子質量82kDa及び77kDa)、また精巣内では生殖細胞マーカー糖タンパク質TEX101(分子質量38kDa)であることが既に判明している。さらにTs4抗体は性成熟前の精細胞にも反応することが新たに明らかとなったが、その対応抗原の分子質量は約65kDaであり、α-N-アセチルグルコサミニダーゼやTEX101のそれとは異なっていた。従って性成熟前の精細胞ではTs4認識バイセクト型糖鎖はそれらの分子とは違う糖タンパク質に付加されている可能性が高い。そこで本研究では性成熟前(生後22日)の精細胞におけるTs4認識bisecting GlcNAcで修飾される糖タンパク質の同定を、免疫沈降法及び高速液体クロマトグラフィー/質量分析法を用いて行った。その結果、Ts4抗体との共沈物中には癌転移や免疫に関係すると報告されている複数の糖タンパク質が含まれていた。bisecting GlcNAc構造を有する糖鎖はこれらの分子を介して性成熟する前の精細胞の増殖機能調整に関与する可能性がある。今後さらにこれらの分子の特異抗原を用いて研究を続ける予定である。
2: おおむね順調に進展している
平成29年度の研究目的は精細胞におけるTs4抗体が認識するバイセクト型糖鎖で修飾された糖タンパク質の同定である。その方法として免疫沈降法により本抗体の対応抗原を精製し、高速液体クロマトグラフィー/質量分析法を用いて解析した。当初の計画通り、性成熟前のTs4認識候補分子を同定することが可能であった。従って本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
平成29年度の研究で同定された分子中で、実際にどれがTs4認識分子であるのかをそれぞれの特異抗体を用いて確認する。さらに同定されたタンパク質をコードする遺伝子を培養細胞株に導入し、Ts4対応抗原発現細胞株を作製する。次に発現させたタンパク質にTs4反応性バイセクト型糖鎖が修飾されていることを確認する。修飾されている場合には、本糖鎖構造をペプチドに付加するN-アセチルグルコサミン転移酵素III(GnT-III)に対するsiRNAを導入し、バイセクト型糖鎖合成を阻害したときの細胞動態を解析する。バイセクト型糖鎖が発現タンパク質に付加されていない場合には、GnT-III遺伝子が高発現している細胞株を選別し使用する、あるいはGnT-III遺伝子を導入して実験に供する。
複数存在すると考えられるTs4対応抗原の同定の過程で、本年度は免疫沈降法及び高速液体クロマトグラフィー/質量分析法を用いた候補分子能同定を優先したため、個別の解析に用いる抗体の購入・作製を本年度中には行わなかった。従って次年度使用額が生じた。抗体の購入・作製に使用する計画である。
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