研究実績の概要 |
本研究では,重症妊娠高血圧腎症 (PE) 群:8例,対照妊婦として合併症のない正常血圧妊婦 (NL) 群:8例および子宮内胎児発育不全 FGR) 群:8例の計24例の胎盤を用いてRNA-Seqによるトランスクリプトーム解析を行い,転写産物の発現定量のみならず,新規転写産物について検討した。 はじめに,Quality check後に57,773遺伝子に対して群間比較を行ったところ,NL群とPE群において,Fold Change > 2,P-value < 0.05かつFDR p-value <0.25を満たすのは168遺伝子であった。一方,NL群とFGR群において,同条件を満たすのは1,314遺伝子であった。このうち,PE群とFGR群で共通していたのが,37遺伝子であり,31遺伝子が増加し,6遺伝子が低下していた。PE群でのみ差を認めたのが131遺伝子であり,102遺伝子が増加し,29遺伝子が低下していた。この結果,これまで明らかにされていない新規転写産物リストが作成され,疾患特異的な新たな生物学的マーカーとしての有用性が確認された。 次に,選択的スプライシングバリアントについてNL群とPE群の検索を行ったところ、skipped exon, alternative 5'splice site, alternative 3'splice site, mutually exclusive exonsでは有意な差を見いだせなかったが、retained intronで2.22%の遺伝子で異なるsplicing eventsが同定された。また,有意なスプライシング関連遺伝子の変動として,SRRM2,INTS3,MRPS21,RRP9,HSD17B10,RPS21,SNRPA,NOP2,MPHOSPH6,SNRPF,QTRT1,THOC3,CELF6の発現上昇とUTP18,CNOT6L,ESRP1,SIRT1,PPP4R2,FMR1,PUM2,QKI,SNRPA1の発現低下が確認された。これまで,妊娠高血圧腎症や子宮内胎児発育不全におけるintron retentionに関する報告はないため,さらなる詳細な検討により妊娠高血圧症候群や胎盤形成不全に伴う子宮内胎児発育不全の発症機序に関する解明を進めることにより,母児の予後改善や周産期医療への大きな貢献が期待される。
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