エストロゲン合成酵素をコードするアロマターゼ遺伝子は、成熟したヒト胎盤の栄養膜細胞で高発現することが知られている。我々は、栄養膜細胞のモデル細胞であるJEG3細胞株には、アロマターゼ陽性細胞と陰性細胞が存在することを見出した。この結果は、JEG3細胞集団には分化ステージの異なる細胞が混在しており、アロマターゼ遺伝子の発現を指標として、それらを分取できる可能性があることを示している。そこで、CRISPR-Cas9を用いた相同組換えによるノックイン法で、JEG3細胞株のアロマターゼ遺伝子をGFP遺伝子に置換したレポーター細胞株の樹立を試みた。組換えのドナーDNAには、GFP遺伝子及びピューロマイシン耐性遺伝子をアロマターゼ遺伝子の転写開始点前後に挟んだプラスミドを用いた。JEG3細胞株にドナーDNAをトランスフェクションし、ピューロマイシンセレクションにより耐性株を得た。耐性株をクローニングし、その中から正しくノックインされたクローンを複数回収した。しかし、いずれの株でもGFP陽性細胞を検出することが出来なかった。その原因として、GFPの蛍光強度がアロマターゼ遺伝子の発現を検出するには十分でなかった、あるいはGFP遺伝子の挿入位置に問題があった可能性を考えている。以上の結果を踏まえて、令和2年度からの研究課題では、アロマターゼ遺伝子の直下にIRESを挟んで薬剤耐性あるいは感受性遺伝子を挿入した細胞株を作成し、得られた細胞株を薬剤処理することにより分化ステージの異なる細胞を回収することを考えている。
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