研究課題
産婦人科領域の絨毛性疾患である胞状奇胎の多くは、雄核発生(ゲノム欠損卵子に1精子受精あるいは2精子受精)や正常卵子に2精子受精が原因で発症すると考えられている。一方、父母に由来するゲノムを1セットずつ継承しているにもかかわらず、母親の染色体19番にコードされているNLRP7 (NLR family, pyrin domain containing 7) 遺伝子に変異があると繰り返して胞状奇胎(反復胞状奇胎)を発症することが我々のグループを含めて複数のグループから報告されている。NLRP7遺伝子変異がどのように胞状奇胎の病態を形成するか、そのメカニズムは不明である。本研究の目的は、ゲノム編集CRISPER/Casシステムを利用しNLRP7遺伝子を破壊した反復胞状奇胎の疾患モデルヒト細胞を作成し、NLRP7遺伝子の機能の一端を明らかにすることである。平成28年度には、反復胞状奇胎の疾患モデル細胞の作成を行った。Graham博士らが樹立したtrophoblast cell lineの HTR-8/SVneoを利用して疾患モデル細胞の作成を行った。ゲノム編集CRISPR/Casシステムに必要なベクター等はaddgeneから入手し、更に改良を加えたベクターを利用した。CRISPR/Casによるゲノムの改変では、標的配列以外を切断するoff-target effectが知られているため、off-target effectが少ないダブルニッキング法を使用した。さらに、連携研究者が開発したプログラムfcrispr(標的塩基配列の特異性をヒト全ゲノム配列と比較して選択する)を使用して配列特異性の高い標的配列を選択してベクターを作成した。これらのベクターをエレクトロポレーション法で一時的にHTR-8/SVneoに導入し、いくつかの細胞株からDNAを抽出した。
3: やや遅れている
DNA組換え実験に必要な機器等をセットアップしながらの研究着手となった。大腸菌培養用の振盪器などは大学の備品で整備し、ベクター構築はできるようになった。しかし、大学内にシークエンサーや解析ツール(ソフト)がないので、作成したベクターや遺伝子改変した細胞の塩基配列の確認は外部に委託するなど効率が悪い。また、教育、大学運営等に費やす時間がかなり多く、実験に従事する時間が十分に確保できない状況であった。
H29年度には、開発した疾患モデルヒト細胞の検証とNLRP7が細胞増殖に与える影響について検討を開始する。NLRP7遺伝子のノックアウトの確認に、シークエンシングによる塩基配列の確認と、定量的PCRやウエスタンブロッティングでNLRP7の発現レベルとタンパク質量の確認を行う。また、NLRP7遺伝子破壊が確認できた細胞を用いて、胞状奇胎に特徴的な絨毛の嚢胞状変化など細胞の形態変化の有無、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)の産生増加などを調べて、開発した細胞が胞状奇胎で報告される特徴を備えているか検討する。さらに開発した疾患モデル細胞を利用して、細胞の増殖能、細胞周期を制御する因子やシグナル経路の活性化など調べて、NLRP7の機能解析を進める。シークエンシングは外部委託による解析を計画している。定量的PCR、ウエスタンブロッティングは所属する大学内の機器を使用し解析する。
初年度のため、当該年度物品費を多めに計上しており、15万円ほど未使用額が生じた。また、分担研究者に配分した研究費は、当初予定していた学会参加が分担研究者の用務繁多のため見合わせになり未使用額が生じた。
次年度使用額と翌年度分として請求した助成金と合わせて、研究遂行のために使用する。H29年度には、細胞培養、タンパク質の解析、塩基配列解析などにかなりの費用が見込まれるため、有効に活用する。分担研究者に配分する研究費は本研究遂行に必要な消耗品の購入や情報収集に使用する。
すべて 2016 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 備考 (1件)
Gynecol. Obstet. Invest.
巻: 81 ページ: 353-358
10.1159/000441780
http://www.kio.ac.jp/