研究実績の概要 |
卵巣がん転移におけるセラミドおよび代謝酵素の意義を明らかにするために、これまでにマウス卵巣がん転移モデル(SKOV3 細胞)から 4 株の易転移性卵巣がん細胞を樹立した(M1-1, M1-2, M1-3, M1-4)。これらのセラミド量を質量分析法により定量したところ、易転移性細胞ではセラミド量が低下することが判明した。さらに網羅的RNAseq解析から、易転移性細胞においてセラミド合成酵素 2(ceramide synthase 2、CerS2)の発現が有意に低下することを発見した。その他スフィンゴ脂質代謝酵素の発現には有意な変動はなかった。さらにイムノブロット法においても、CerS2タンパク質発現は親株に比して易転移性細胞では有意に減少した。さらに、細胞内セラミド量を測定したところ、いずれの易転移性細胞において有意なセラミド量の低下が見られた。そこでがん転移での CerS2 の意義を明らかにするためにゲノム編集によりCerS2 欠損 SKOV3 卵巣がん細胞を樹立した。この欠損細胞では、C24-セラミド量は減少し、逆にC16-セラミド量が増加した。さら欠損細胞の運動性を解析したところ、親株と比して運動性が亢進していた。また、RNA干渉を用いた系においても、遺伝子ノックアウトと同様にCerS2ノックダウンは運動性を亢進させた。近年、セラミド分子種にもそれぞれに特有の生物活性を有していることが知られている。そこで、C16-セラミドおよびC24-セラミド添加の細胞運動性への効果を検討したところ、いずれの分子種も有意に運動性を抑えることが判明した。 セラミド生成・代謝酵素の制御破綻とこれに引き続くセラミド量低下が卵巣がん転移の原因の1つであると思われ、CerS2は卵巣がんにおいて運動性に依存した転移を抑える制御分子であると考えられる。
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