研究実績の概要 |
リンチ症候群(LS)はミスマッチ修復(MMR)遺伝子(MLH1,MSH2,MSH6,PMS2)の生殖細胞系列変異を主な素因としたDNA修復機構の障害により、多種の癌が高頻度に発生する常染色体優性遺伝の症候群である。日本の子宮体癌(EC)におけるLSの臨床像を明らかにし、効率的な識別戦略を考案することを目的に研究展開した。倫理委員会承認と患者同意を経て、EC患者360例を対象に後方視的研究を実施した。高感度一次選別として新規の臨床基準(APF基準)を設計し、合致例の腫瘍組織にMMR蛋白に対する免疫染色(IHC)と選択的メチル化解析を行った。以上により「LS疑い」例を選出し、その特徴と独自戦略の効率性を総合誌に報告した。更に、IHCで検出されるPMS2蛋白単独欠損がMLH1プロモーター領域の高メチル化によって引き起こされることを発見し、遺伝子解析の傍証を添えて専門誌に報告した。全例への分子学的評価(U/S)を追随し、「LS疑い」例に遺伝子解析を加え、U/SによるLS識別も完遂した。その結果から日本のECにおけるLS女性の割合を約4.5%と推定した。「LS様の分子学的特徴を示すがMMR遺伝子に病的変異を認めない例」はLynch-like cases(LL)と称されるが、認知途上で管理指針もない。その臨床像を捉えることを派生課題とし副次解析を行った。USで選出した「LS疑い」42例中25例に遺伝子解析を行いLS群、LL群に分類し、散発癌群と比較した。LS群は「若年発症」「関連癌病歴」「関連癌家族歴」において他群より高頻度、LL群は「関連癌家族歴(特に胃癌)」において散発癌群より有意に高頻度であった。ECにおけるLSとLLをアジア圏で初めて弁別し、その特徴と地域性を捉え、世界初の詳報として専門誌報告した。 MLH1遺伝子のメチル化によるMMR機能障害例についても、解析を進めている。
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