研究課題/領域番号 |
16K11148
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
吉田 昭三 奈良県立医科大学, 医学部, 研究員 (40347555)
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研究分担者 |
山田 有紀 奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (20588537)
小林 浩 奈良県立医科大学, 医学部, 教授 (40178330)
栗田 典之 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40283501)
長安 実加 奈良県立医科大学, 医学部附属病院, 研究員 (80623496)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 卵巣癌 |
研究実績の概要 |
独自に開発した高精度分子シミュレーション手法を用い、ウロキナーゼとウロキナーゼ受容体複合体の水中での安定構造を決定し、それらの間の特異的相互作用を電子レベルで初めて解析した。その結果、ウロキナーゼ中の4個のアミノ酸(Lys23, Phe25, Lys46, Lys98)がウロキナーゼ受容体との結合に重要であることを明らかにした。従来の研究は、受容体の結合ポケット内部に存在するLys23とPhe25のみを重要視し、ポケットから離れたLys46とLys98は無視して、ポケットに、はまり込むペプチド薬を設計していた。一方、本研究では、正に荷電したLys46とLys98が結合に重要であることが判明したため、それらを含み、ポケットの入口を塞ぐバンドエイド型ペプチドを新たに提案し、ウロキナーゼ受容体への結合の強さを解析する。フラグメント分子軌道法を用い、ペプチドと容体間の結合エネルギーを高精度に求め、受容体に最も強く結合するペプチドを決定する。ペプチド中のグリシンを他の荷電アミノ酸に置換し、新たに無電荷ペプチドを提案した。その際、中心部の正に荷電した部位に、ペプチドが強く結合できるように、負電荷を持つアミノ酸に置換し、受容体との結合エネルギーを求め、受容体に最も強く結合する次世代ペプチドを提案した。また、計算結果をデータベース化し、ペプチドのアミノ酸配列から受容体への結合強度を予測できるようにした。ウロキナーゼ受容体の鍵穴に入り込まずに表面を覆う「バンドエイド型」ペプチドを今まで複数試作し、最小単位として[Gly-Lys-(Gly)n-Lys-Gly]構造を有するペプチド合成に成功している。今回はn=5,6,7,8,9,10とした時の結合強度をシミュレーションで検討した結果、n=5が最適であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まずウロキナーゼ受容体への結合阻害を確かめるために、FITC結合ウロキナーゼを用いてフローサイトメトリーで評価を行った。ウロキナーゼ受容体を発現している細胞として、U937細胞をPhorbol 12-Myristate 13-Acetate(PMA)で刺激したマクロファージ細胞を使用した。次世代ペプチド薬及びその配列をシャッフルしたコントロールペプチド薬と、ウロキナーゼ結合FITCの競合阻害実験を行った。この実験では、結合阻害率はコントロールベプチドと有意差を認めなかった。そのため、試作ペプチドはウロキナーゼ受容体のブロック以外の機序で効果を発揮している可能性も示唆された。 次に、ヒト卵巣明細胞癌KOC-7c、TOV-21Gを培養し、試作ペプチド薬及びその配列をシャッフルしたコントロールペプチド薬を用いて、増殖能・浸潤能についての評価をおこなった。培養細胞の増殖については、MTTアッセイを用いて評価した。また、卵巣癌細胞株の浸潤能についてはボイデンチャンバーアッセイを用いて評価した。この実験結果、次世代ペプチド薬は、増殖能は抑制しないことが分かった。しかし、浸潤能についてはコントロールペプチドと比較し、有意に低下することが明らかとなった。現在は、時間経過での浸潤能を比較するために、同様の卵巣明細胞癌細胞株を使用し、IncuCyte Zoomを用いた浸潤能測定実験を行っている。 以上の結果より、試作ペプチドが卵巣明細胞癌の浸潤能を抑制することをin vitroで確認できた。フローサイトメトリーの結果からは、単なる受容体ブロック以外の新規機序の可能性への発展も期待できると考えられる。試作ペプチドのウロキナーゼ受容体以外への作用については、今後も検討を続ける。
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今後の研究の推進方策 |
卵巣明細胞癌細胞株において、試作ペプチドが浸潤能を抑制することは明らかになった。ウロキナーゼ受容体以外への作用についても検討するために、uPA-uPARの結合シグナルを伝達する時に重要な役割をはたすビトロネクチンやインテグリンとの関係についても検討を行う。またuPAはERKシグナル経路を介して癌細胞の浸潤に関わるとされており、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMPs)を含むシグナル伝達にどのような作用を及ぼすか、in vitroで検証する。 また、今後はコンピュータシミュレーションによるdry labから培養細胞を用いたwet labへの展開を考えている。ヒト卵巣明細胞癌KOC-7c、TOV-21Gをヌードマウス皮下、腹腔内及び卵巣への同所移植し、増殖と転移の状態を調べる。次世代低分子ペプチド薬およびコントロールペプチド薬を皮下注射、腹腔内投与および経口摂取させ、これらの状態が制御されるかを検討する。ペプチド薬単独での検証結果を踏まえて、卵巣癌化学療法のキードラッグであるシスプラチンとペプチド薬の併用により、癌抑制効果が増強するかを検討する。 次に、第2世代ペプチドの毒性試験を実施するため、採血及び組織学的検査を行い、血液毒性や組織学的毒性を評価する。新規ペプチドの薬理学的安全性試験のために、毒性基礎試験等の関連初期安全性試験を実施し、その薬効・安全性・薬物動態・物性を総合的に評価する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
培養細胞の維持のための培養液等の試薬を購入せずに済んだことと、消耗品の購入が少なくて済んだため。
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次年度使用額の使用計画 |
今後、uPAR関連蛋白を標的とした分子標的薬あるいは合成致死を発揮する遺伝子の同定も行う予定であり、遺伝子導入やノックダウン実験に充てる。uPAR受容体後のシグナル伝達を修飾する遺伝子群のうち、ATR, ATM, Chk1, Chk2との関連を探索するために抗体やPCR関連試薬も購入する予定である。
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