研究課題/領域番号 |
16K11150
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
吉元 千陽 奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (00526725)
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研究分担者 |
棚瀬 康仁 奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (20423915)
小林 浩 奈良県立医科大学, 医学部, 教授 (40178330)
赤坂 珠理晃 奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (90526724)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | MRスペクトロスコピー / チョコレート嚢胞 / 内膜症関連卵巣癌 / 癌化 / 鉄濃度 / 酸化 / 抗酸化 |
研究実績の概要 |
チョコレート嚢胞の癌化のメカニズムについては未だ不明な点が多いが、我々が今までに行った基礎研究の結果、微小環境の変化、すなわち嚢胞内容液に含まれるヘモグロビン由来の「鉄」による持続的酸化ストレスが発癌に密接に関連していることが明らかとなった。さらに、癌化した嚢胞内容液中の鉄濃度は、良性の卵巣子宮内膜症性嚢胞と比較して有意に鉄濃度が低いことを初めて生化学的に見出した。今回はMRスペクトロスコピー(MRS)を用いて非侵襲的に腫瘍内用液中の鉄濃度を測定し、チョコレート嚢胞の癌化の予測・早期診断をすることを目的とし、チョコレート嚢胞と内膜症関連卵巣癌疑いで手術予定の患者に術前MRSを施行して腫瘍内鉄濃度を反映するR2値を測定した。両疾患のカットオフ値を設定するべく症例を集積しているが、病理学的検査で内膜症関連卵巣癌患者を証明できる症例は本年度も依然として少なく、卵巣癌症例集めに難渋している。 また、チョコレート嚢胞内用液中の「鉄」による発がん仮設を実証すべく、チョコレート嚢胞・内膜症関連卵巣癌の内容液中の酸化/抗酸化物質の発現を検討した。その結果、内膜症関連卵巣癌はチョコレート嚢胞と比較して相対的に総抗酸化物質が酸化物質より高かった。この結果は、我々の発癌仮説である、チョコレート嚢胞は鉄による酸化ストレスがきわめて強いため、ほとんどの子宮内膜症上皮細胞は癌化する前に死滅する一方、癌化する場合は、何らかの抗酸化能を獲得することで細胞死が抑制されるのに加え、至適な鉄の環境下で、適度の持続的な酸化ストレスを受け、DNA障害や遺伝子不安定性を持ったまま生存し続けるため、増殖・癌化・浸潤・転移能を獲得する、という考えを支持する結果であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度も昨年度に続き、当施設のMRI検査が非常に混んでおり、時間面で頻回のMRI検査を多数の患者で前方視的研究として行うことは困難な状況であった。従って、両疾患の患者が手術前日に入院した際に術前MRS測定を施行することとなった。手術日の前日が休日である場合は測定できないが、平成29年度は平成28年度と比較し術前MRSを施行できた症例はやや増加した。しかし、本年度も内膜症関連卵巣癌に関しては数例のみしか対象者がおらず、卵巣癌症例集めに難渋している。近隣の他施設の患者でも内膜症関連卵巣癌が疑われる症例は、セカンドオピニオンで当院に紹介していただき、MRSを測定するなどの対応策を検討したい。また、画像上卵巣癌が疑われた症例は、内膜症関連の有無に関わらず積極的にMRSを評価し、症例の取りこぼしがないように注意深く症例を集積していく予定である。 また、チョコレート嚢胞内鉄濃度に影響を及ぼす因子を検討するため、これまでR2値を測定できた症例においては、年齢、腫瘍径、月経周期、ホルモン剤などの有無に関して検討したが、同一患者における月経周期毎の変化に関しては未だに測定できていない。次年度に小数例でも実施したい。 本年度はチョコレート嚢胞内用液中の「鉄」による発がん仮設を実証すべく、チョコレート嚢胞・内膜症関連卵巣癌の内容液中の酸化/抗酸化物質の発現を検討した。その結果、内膜症関連卵巣癌はチョコレート嚢胞と比較して相対的に総抗酸化物質が酸化物質より高いことが判明した。この結果は、我々の発癌仮説を支持する結果であった。さらに我々は抗酸化物質の中でも、特にヘムの代謝に関連したヘムオキシゲナーゼ1(HO-1)に着目し、癌化に関連する重要な抗酸化物質と考えて研究を進めていくところである。
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今後の研究の推進方策 |
MRスペクトロスコピー(MRS)を用いて腫瘍内用液中の鉄濃度を測定し、チョコレート嚢胞の癌化の予測・早期診断をするための両者のR2値のカットオフ値を設定するために、今後も注意深く目標数に至るまで症例を集積していく。特に内膜症関連卵巣癌は、一施設だけでは元々症例数自体が非常に少ないため、近隣の他施設の患者でも内膜症関連卵巣癌が疑われる症例は、セカンドオピニオンで当院に紹介していただき、MRSを測定するなどの対応策を検討したい。また、画像上卵巣癌が疑われた症例は、内膜症関連の有無に関わらず積極的にMRSを評価し、症例の取りこぼしがないように注意深く症例を集積していく予定である。 チョコレート嚢胞患者における発がん予測・早期発見が可能かの前方視的研究は、対象症例が多くなるため当院MRI検査の混雑の程度を考慮すると、現状では実施困難であると考えられる。しかし、月経周期などがR2値に影響しないかを同一患者において検討するのは少数例でも実施したいと考えている。 内膜症関連卵巣癌はチョコレート嚢胞と比較して相対的に総抗酸化物質が酸化物質より高いことが判明したが、具体的にそのメカニズムの解明には至っていない。抗酸化物質の中でも、特にヘムの代謝に関連したヘムオキシゲナーゼ1(HO-1)に着目し、チョコレート嚢胞と内膜症関連卵巣癌での局在を免疫組織学的に検討する。また培養細胞(子宮内膜症上皮細胞、子宮内膜症間質細胞、マクロファージ、卵巣明細胞腺癌など)を用いて酸化ストレスを与え、HO-1の発現や分化誘導因子を検討する予定である。 子宮内膜症上皮細胞を用いて鉄による酸化ストレスを想定したH2O2、ヘトメモグロビンを添加し培養することで、既存の発癌に関連する遺伝子として報告されているARID1A、PIK3CAなどの遺伝子変化が引き起こされるかも検討する予定である。
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