研究課題
これまでに我々は卵巣明細胞癌においてHIF-1αが組織型特異的に高発現かつ活性化しており、これらが本組織型の治療抵抗性の一因である可能性を報告してきている。そこで本研究では、卵巣明細胞癌におけるシリビニンのHIF-1α阻害ならびにHIF-1活性化抑制効果のメカニズムについて検証し、さらにシリビニンによるHIF-1の抑制を通じた抗腫瘍効果、多剤併用療法による腫瘍縮小効果、本剤がもたらす有害事象などを明らかにすることで、新たな抗腫瘍薬としての可能性について検討を行っている。平成29年度では卵巣癌細胞株を用いてシリビニンによるHIF-1αの発現変化、またHIF-1の活性化に与える影響について解析した。方法として、1.シリビニンによるHIF-1関連遺伝子の動態変化の解析(DNAマイクアレイを用いて)、2.シリビニンによるHIF-1αタンパクの発現変化の解析(シリビニン投与試験)、3.シリビニンによる細胞質および核におけるHIF-1αタンパクの動態解析を行った。これらの検討から、シリビニンはHIF-1αの遺伝子発現レベルではなく、タンパクレベルでの発現抑制することが認められた。一方、細胞質と核における発現量比(N/C比)の解析からHIF-1αを過剰発現させてもシリビニンによりHIF-1αタンパクの発現を抑制できることが確認できた。シリビニンはin vitroにおいてアポトーシスを誘導することが前立腺癌において既に報告されている(Cancer Res Front 1:303-18, 2015)ことから、平成30年度では、シリビニン投与群の細胞数の減少がアポトーシスに起因するものかも併せて検討し、シリビニンの抗腫瘍薬としての可能性について更に検討したい。
2: おおむね順調に進展している
これまでの検討からシリビニンがもたらすHIF-1への影響が少しずつ明らかになってきており、今後は更にシリビニンのHIF-1抑制を通じた、卵巣明細胞癌の新しい抗腫瘍薬となりうるか検討していきたい。
平成30年度は、HIF-1αの核移行の阻害を通じた新たなHIF-1非機能化薬剤の開発を主眼に研究を遂行する。概要として、これまでの結果から、in vitroにおいて核移行阻害プロセスを通じ、最もHIF-1の活性化阻害効果のあるシリビニンを用いて、臨床応用可能な抗腫瘍薬の開発を目指す。また、本解析ではin vivoモデルにおける投与量試算、腫瘍縮小効果、毒性試験による有害事象等の検索など、より臨床応用に即した検討を行い、国際学会ならびに論文を通じ得られた結果を全世界へ公表をする。①モデル作製と薬剤投与、経過観察:各種明細胞癌培養株をヌードマウス皮下ならびに腹腔内へ移植し、皮下移植モデルならびに腹膜播種モデルを作製する。その後、腫瘍体積(V)を、腫瘍の長径(L)、短径(W)、厚み(H)を計測し、V=L×W×H/2の近似式により算出し、皮下移植モデルについては100mm3になった時点で薬剤の投与開始とする。腹膜播種モデルについては、小動物用MRIを用いて、生着を確認後、IP療法により、抗腫瘍効果を検討する。投与期間、投与量等については、予め少数の各群で検討し、大規模試験前に実験動物を無駄にしないように最大限配慮する。併せて多剤併用についても効果を検討する予定である。②毒性試験:当大学のみでは、詳細な毒性試験を施行することは難しいことから、外部委託をし、最も抗腫瘍効果の得られた薬剤の濃度、条件における薬物毒性について検討を依頼する。既に委託会社については、我々の趣旨について説明し、受託の了解が得られている。本解析により、検討薬剤が明細胞癌におけるHIF-1活性化の阻害を通じた新規抗腫瘍薬として証明されることで、明細胞癌の治療成績を大きく改善できるものと考えている。また明細胞癌のみならずHIF-1が活性化した腫瘍の新規治療薬としても提案できるものと考えている。
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