研究課題/領域番号 |
16K11160
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
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研究分担者 |
早川 智 日本大学, 医学部, 教授 (30238084)
相澤 志保子 日本大学, 医学部, 准教授 (30513858)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 腟上皮細胞 / 細菌 / 免疫応答 / サイトカイン / 抗微生物ペプチド / HIV 複製 / T 細胞 / HMGB1 |
研究実績の概要 |
腟内には常在細菌叢が存在し、恒常性を保っているが、常在菌叢の乱れ(disbiosis)は細菌性腟症の原因となり、他の性感染症の感染リスクが上昇することが知られている。そこで、本研究では腟上皮細胞が免疫学的機能を持つことに着目し、細菌性腟症の原因となる細菌の菌体成分や代謝物質等が腟上皮細胞に与える影響について調べることを目的とした。大腸菌由来LPSを腟上皮細胞株(VK2/E6E7)に添加すると、beta-defensin-2の産生が誘導されたが、IL-8, elafin やbeta-defensin-4の産生は誘導されなかった。一方、ペプチドグリカンを添加するとIL-8とelafinの産生が誘導された。この結果から、グラム陽性菌と陰性菌では腟上皮細胞が産生するサイトカインや抗微生物ペプチドが異なることが示唆された。さらに、これらの培養上清をHIV感染MOLT-4細胞に添加し、HIVの複製に与える影響を検討したが、HIVの複製には影響を与えなかった。
High Mobility Group Box 1 (HMGB1)は主に核内に存在しDNA 結合タンパク質として機能するが、LPSなどの刺激によって核内から細胞外に放出され、TLRなどの自然免疫系受容体によって認識されて様々な免疫応答に関与することが多数報告されている。そこで、本研究ではHMGB1がHIVの複製に与える影響についても検討した。HIVを感染させたT細胞にHMGB1を添加するとHIV複製が増加し、また抗HMGB1抗体を添加するとHIV複製を抑制することが明らかとなった。従って、HMGB1がHIV複製を増強することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
腟上皮細胞株(VK2/E6E7)を細菌の構成成分とともに培養し、その上清を回収した上でサイトカインや抗微生物ペプチドの産生を解析した。さらに上記の上清でHIV-1感染したMOLT-4細胞を培養し、HIV複製を解析した。当初の計画の通り、28年度の目的をおおむね果たした。さらにHMGB1がT細胞におけるHIV複製に影響を及ぼすことを明らかにし、学会や論文で発表・報告した。
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今後の研究の推進方策 |
1. ホルモン補充療法(HRT)の効果に関する研究の実施:HRTは腟上皮細胞のグリコーゲン産生を促進するとともに細胞間結合を強固にするため、腟萎縮や慢性炎症に対する最も効果的な治療法である。本実験系で培養上清中にestradiol, estriol. 選択的エストロゲン受容体モジュレーターを添加して細菌成分によるHIV複製への影響を検討する。 2. NK細胞活性化に及ぼす影響:HIV感染の初期防御には粘膜型NK細胞が重要な役割を果たしていると考えられている。上記の腟粘膜細菌共培養上清をヒト末梢血NK細胞,様々な分化段階にあるNK細胞株(KHYG-1,NK-92 )に添加し、IL-4、IL-17、IFN-γ、IL-22産生性,ROR-γTなどNK22/17分化の調節因子発現,HIV感染細胞への傷害性をフローサイトメトリーで検討する。 3. 研究結果の公表:前年度の研究結果が一部(HMGB1タンパク質がHIV複製に役割影響について)は公表されたが、未発表の部分については再実験や追実験を行い、得られたデータを分析後、投稿する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度はホルモン補充療法の効果に関する研究やNK細胞活性化に及ぼす影響の研究の実施に、また前年度の実験に引き続きHIV複製に役割影響を持つ因子の解析に、HMGB1、エストロゲン、プロゲステロンなどの試薬、抗体やELISAキットなどの購入が必要である。さらに研究結果の公表のための英文校正サービスや論文発表などの費用が必要となる。
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次年度使用額の使用計画 |
上記の通り平成29年度は試薬、抗体やELISAキットの購入が必要と考えられるため,研究費の多くをこれらの消耗品の購入に充てる予定である。また残額は研究結果の公表代金に充てる予定である。
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