研究実績の概要 |
本研究では腟上皮細胞が免疫学的機能を持つことに着目し、細菌性腟症の原因となる細菌の菌体成分や代謝物質等が腟上皮細胞に与える影響について調べることを目的とした。腟上皮細胞株(VK2/E6E7)と菌体成分(大腸菌由来LPS,ペプチドグリカン)とともに培養し、グラム陽性菌と陰性菌では腟上皮細胞が産生するサイトカインや抗微生物ペプチドが異なることが示唆された。さらに、これらの培養上清をHIV感染MOLT-4細胞(ヒトT 細胞白血病由来細胞株)に添加し、HIVの複製に与える影響を検討したが、HIVの複製には影響を与えなかった。ちなみに、DNA 結合タンパク質HMGB1 (LPSなどの刺激によって核内から細胞外に放出されるタンパク質) がT細胞におけるHIV複製を増強することが示唆された。 HIV感染の初期防御には粘膜型NK細胞が重要な役割を果たしていると考えられている。不死化腟上皮細胞(MS74)と不活化細菌菌体(Escherichia coli, Streptococcus aureus)、菌体成分(大腸菌由来LPS,ペプチドグリカン)とともに培養し、その上清を回収した。上記の腟粘膜細菌共培養上清をNK細胞株NK-92MIに添加し、サイトカイン産生パターンを認めた。 腟粘膜の恒常性と堅牢性の維持には腟に常在する乳酸菌が重要な役割を担うとされるがその機序は未知の点が多い。そこで、本研究では腟上皮細胞の再上皮化に対し、腟細菌叢優位菌種の一つであるLactobacillus crispatusがどのような影響を及ぼすかを検討した。L. crispatusの菌自体が産生する可溶成分が腟上皮に作用し、VEGFのaut/paracrine的作用を促進することで、腟の再上皮化を加速する可能性があることを明らかにした。
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