研究課題/領域番号 |
16K11169
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
松原 篤 弘前大学, 医学研究科, 教授 (10260407)
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研究分担者 |
佐々木 亮 弘前大学, 医学研究科, 准教授 (20451479)
工藤 直美 弘前大学, 医学部附属病院, 医員 (30770143)
高畑 淳子 弘前大学, 医学部附属病院, 講師 (60568898)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 好酸球性中耳炎 / Eotaxin / TSLP |
研究実績の概要 |
好酸球性中耳炎は気管支喘息や好酸球性副鼻腔炎に合併する難治性の中耳炎であり、難聴の合併率が極めて高い事が知られている。臨床的な特徴は、好酸球浸潤の著明なニカワ状の耳漏にあり、診断基準の重要な項目である。しかし、なぜ好酸球が中耳に浸潤して、炎症を発症するのかなど病因にはいまだに明らかになっていない部分も多い。また現在の診断基準が定められてから、正確な疫学調査も行われてこなかった。そこで、本研究は好酸球性中耳炎を臨床的側面、基礎的側面から解決されていない点を多角的に解明することを目的として企図された。 好酸球性中耳炎症例の標本を用いた中耳肉芽と中耳貯留液の好酸球性炎症に関わる種々の物質の解析に関しては、好酸球由来の組織障害性タンパクであるMBPの局在に関して免疫組織学的な検討を行った。その結果、中耳粘膜にはMBP陽性の好酸球が多数存在しているだけでなく、中耳滲出液中に遊走した好酸球からもMBPが放出されて中耳腔側の上皮にも沈着し上皮障害の要因となりうることを明らかにしている(雑誌「耳鼻咽喉科免疫アレルギー」へ投稿。現在印刷中)。 好酸球性中耳炎モデルを用いた研究に関しては、好酸球遊走因子として知られるエオタキシンがモデル動物の中耳粘膜にも発現し、抗原刺激が長期に渡るほどエオタキシンの免疫染色性が上昇して、中耳粘膜に浸潤する好酸球数も増加することを明らかにした。また、抗原刺激が早期のモデルにおいて内耳の外リンパ腔に好酸球浸潤が認められるものの、エオタキシンの染色性は外リンパ腔側には認められないことなどから、内耳への好酸球浸潤は正円窓膜を経由してエオタキシンが外リンパに移行することや好酸球が遊走すること推測し、英文誌に投稿し受理された。さらにこのモデルを用いて、アレルギー性炎症のマスタースイッチであるTSLP (thymic stromal lymphopoietin)の局在についても研究を遂行中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
青森県全県を対象とした好酸球性中耳炎疫学調査に関しては、第一次調査を行い調査表の回収が終了しておりこれから有病率・発症率の解析を進める予定である。 好酸球性中耳炎モデルを用いた基礎的研究としては、好酸球遊走因子の局在を“Immunohistological Analysis of Eotaxin and RANTES in the Model Animal of Eosinophilic Otitis Media”としてACTA Otolaryngolに投稿して、審査と改訂の上でe-pubにて公表された、現在本誌での掲載待ちの状態である。 さらに、好酸球性中耳炎の発症に関わる重要な因子として、TSLPの局在を検討中である。現時点では、好酸球性中耳炎モデルではTSLPが耳管から耳管咽頭口周囲粘膜に局在し、抗原刺激が長期に渡ることによりTSLP陽性の細胞が増加することを見出している。その成果を2017年4月に開催された第35回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会にて「好酸球性中耳炎におけるTSLP」として発表を行った。現在、形態学的検討だけでなく、分子生物学的な解析も進めて英文原著論文として発表の予定である。 さらに、浸透圧ポンプを用いて抗原刺激を行う新たな動物モデルの作成については現在のところ進行中の段階である。
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今後の研究の推進方策 |
好酸球性中耳炎疫学調査に関しては、第一次調査の後に、症例を追跡した第二次調査を行い、治療薬と聴力変動との関連やバイオマーカーに関する検討を行うことで、聴力温存のための治療を図る。 基礎研究としては、現在進行している研究をさらに進める予定である。TSLPに関しては、耳管と耳管咽頭口周囲の粘膜上皮細胞における局在を免疫組織学的手法で明らかにするだけでなく、PCRによる分子生物学的検討も進める。また、TSLPによる刺激を受けてアレルギー性炎症発症に関わるもう一つキーである樹状細胞の局在についても免疫組織学的手法とPCRによる分子生物学的検討を行う。また、われわれの作成した動物モデルは全身感作と鼻粘膜刺激、中耳刺激からなるが、今後はこれらの抗原刺激のルートを見直して、種々のモデル作成をすることにより、好酸球性中耳炎発症のメカニズム解明に向けての更なるアプローチを図る。 内耳への好酸球浸潤の観点からは、種々の正円窓を経由するルートも内耳への好酸球浸潤の候補と考えられるため、接着分子など好酸球遊走に関わる接着分子の局在を免疫組織学的に検討するる。鼓膜を温存したモデルが作成されれば聴覚検査などさらに多角的な検討を行い、好酸球性中耳炎の病態を解明していく予定である。
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