神経線維腫症Ⅱ型は両側聴神経腫瘍によって両側高度感音難聴を来す指定難病であるが、手術治療や放射線治療を施行した際の聴力温存率は満足できるものではないため、有効な聴力の残存している間は経過観察することが多い。一方で、最近我々が施行している水中内視鏡下耳科手術は内耳より明瞭に観察できる手術法であり、これまでに半規管瘻孔や上半規管裂隙症候群に対する同手術を施行したが聴力温存が可能であった。本研究課題では経迷路法による聴神経腫瘍摘出術の際に水中内視鏡下に迷路削開を行い、蝸牛を保護し聴力を温存するための低侵襲な手術方法を開発することを目的としている。 初年度(平成28年度)にモルモットによる水中内視鏡下前庭破壊実験にて、術前後の蝸牛機能温存を聴性脳幹反応を用いて検証し、さらに灌流液の種類による差異を調査した。 平成29年度は生体ヒツジによる水中内視鏡下前庭破壊実験を施行した。前年と同様に予めヒツジ頭部標本でシミュレーションを施行し、行程を確認しておいた。次に生体ヒツジを全身麻酔下に耳後部より削開し部分的迷路摘出術を水中内視鏡下に施行した。前後で聴性脳幹反応を測定し、1耳で術直後は良好に蝸牛温存が可能であった。 平成30年度はこれまでの実験、また臨床データを解析し、灌流液は外リンパ液に最も近い組成の人工髄液がよいことが示唆された。また、ヒト側頭骨模型などを用いた手術シミュレーションにて水中内視鏡を用いた部分迷路切除術による錐体部へのアプローチは施行可能と考えられた。今後の課題として、膜迷路への機械的な操作の影響の検討、水中でも確実にシールできる閉鎖素材の改善が望ましいと考えられた。
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