顔面神経麻痺の治療において、麻痺が高度な場合は早期に適切な治療を行っても治癒に至らない症例や後遺症が残る症例が存在する。このような高度麻痺例の予後改善のためには神経障害部位においてワーラー変性を来した神経の新たな軸索伸展および再髄鞘化を促すことが重要である。そのために、我々は、軸索伸展において重要な働きをするタンパクであるDISC1について検討を行っている。30年度は、マウス胎児の脳神経細胞にDISC1-EGFP発現ベクターとコントロールとしてEGFP発現ベクターを導入した。導入後72時間後に脳組織をパパイン処理にて細胞一 つ一つに分離させて、培養神経細胞とし、培養後72時間における神経細胞の軸索の長さと細胞体から出るところにおける軸索の太さについて検討を行った。結果はコントロールにおいてその軸索の長さは平均55.2μmであったのに比べて、DISC1を強発現した細胞においては、69.1μmと有意に軸索の長さが長くなることを確認した。さらに軸索の細胞体付近での太さにおいても、コントロールの1.43μmに比べてDISC1強発現細胞は2.0μmとこちらも太くなることが認められた。29年度に行った微小管重合速度(軸索伸長速度)を共焦点顕微鏡を用いて経時的に観察した結果において、DISC1の強発現においても、軸索の中を移動するEndo-binding protein3(EB3)の速さには有意な変化は認められなかったが、この結果は、DISC1を強発現させても個々のDISC1の移動速度は変わらないが、移動するDISC1の量が増加することによって微小管先端に運ばれる微小管の量が増え、その結果として軸索伸長を促進するということを示唆していると考えられた。
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