研究課題
本研究では、DNA採取と純音聴力検査を施行しえた8例(難聴者4例、非難聴者4例)を含む常染色体優性の非症候群性中耳奇形家系を対象とした。発端者の中耳奇形は、単脚アブミ骨と骨橋を示した。7例のDNAを用い、次世代シークエンサー(Ion Protonシステム)による全エクソーム解析を行った。7つの遺伝子に候補変異(HOXA2:重複変異;MYCT1:欠失変異;SCNN1D、CCNL2、AMER3、EPC2、POPDC2:ミスセンス変異)を同定し、直接シークエンス法により変異と難聴の有無の一致を確認した。しかし、MYCT1は癌抑制遺伝子として報告されていること、5つのミスセンス変異はin silico予測プログラム上「tolerated」と判断されたことから、病因変異の可能性は少ないと考えられた。一方、HOXA2は発達に関与する転写因子をコードし、これまでに常染色体劣性あるいは優性遺伝形式の小耳症の原因遺伝子として報告されていた。HOXA2に同定されたc.456dupCはhomeodomainに位置し、フレームシフトによりトランケーション変異(p.Thr153HisfsX32)が生じると予測された。そして、ナンセンス変異依存mRNA分解機構によるハプロ不全により難聴と耳小骨奇形が発症すると考えられた。本研究の成果として、「非症候群性」中耳奇形の原因遺伝子を初めて同定した。そこで、各種中耳奇形あるいは小耳症を有する19例を対象にHOXA2のスクリーニングを施行したが変異は同定されなかった。従って、HOXA2変異は中耳奇形において比較的まれな原因遺伝子であると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り中耳奇形家系を対象に次世代シークエンス解析を行い、候補遺伝子の絞り込みを行うことができた。
中耳奇形の遺伝学的所見に基づく新分類の確立と病態評価を目的とする本研究において、非症候群性常染色体劣性遺伝形式の中耳奇形を示す3世代の日本人家系に遺伝子解析を行う。本家系では、9例の家族構成員(うち2例の姉妹が中耳奇形)よりDNA採取と純音聴力検査が施行されている。中耳奇形の2姉妹は両側の中耳手術が施行され、全耳がキヌタ骨長脚欠損とアブミ骨低形成を示している。中耳奇形の2姉妹、妹、両親を対象に全エクソーム解析による遺伝子解析を行う。アノテーション、フィルタリングを行い、原因候補遺伝子を選定する。全9例の家族構成員を対象に、候補遺伝子変異を直接シークエンス法により解析し、原因変異を同定する。さらに、信州大学耳鼻咽喉科に収集された難聴者DNAバンクの中で中耳奇形例を抽出し、同定された原因遺伝子のスクリーニングを行う。優性遺伝のauditory neuropathy spectrum disorder(以下、ANSD)家系に関しては全エクソーム解析を行い、8の原因候補遺伝子を同定済みである。信州大学の難聴者DNAバンクの中からANSDを抽出し、各原因候補遺伝子の解析を行う。また、近交系マウスの膜迷路から抽出されたmRNAの解析、内耳の免疫組織学的解析により蝸牛内の存在および局在を検討する。
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Auris Nasus Larynx
巻: 44 ページ: 33-39
10.1016/j.anl.2016.