組織マクロファージは全身の各組織に常在するが、卵黄嚢、胎児肝、骨髄などの由来組織について各組織に特異的な様式を示し、また同一組織内でも由来や局在、機能の異なる亜集団が存在することが報告されている。しかし蝸牛の組織マクロファージについては未だ多くのことが不明である。本研究においては、マウス蝸牛における組織マクロファージの胎生期からの発生と由来組織についての検討を行った。 まず蝸牛の組織マクロファージの出現時期を明らかにするために胎生9.5日から生後21日までのマウス蝸牛でのマクロファージの組織内分布を検討した。マウス蝸牛において組織マクロファージは、胎生10.5日に内耳の原基である耳胞周囲に初めて出現し、以後発生段階の進行に伴って蝸牛内での分布領域や分布密度を変化させながら、最終的にラセン神経節・ラセン靭帯・血管条を含めた蝸牛全域に分布することが明らかとなった。次に局所増殖能については蝸牛組織マクロファージが局所増殖により組織内で維持されることが示唆された。また蝸牛組織マクロファージは神経堤由来の細胞集団とは独立した由来であることが示された。さらにCsf1受容体 (Csf1r)を欠損した遺伝子改変マウスの蝸牛の解析により、胎生期の蝸牛組織マクロファージには、卵黄嚢を由来とするCsf1r依存性のマクロファージと、胎児肝を由来とすると考えられるCsf1r非依存性のマクロファージが存在する可能性が示された。前者は主にラセン神経節やラセン靭帯に分布し、後者は蝸牛軸の間質や外リンパ腔内側壁に分布することが示された。 胎生期における蝸牛の免疫機構の理解により、感染性の先天性難聴を含めた内耳疾患における組織マクロファージを標的とした治療にもつながる可能性がある。
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