本研究では、医学研究および臨床上の有用性が確認され、安全性の上で重大な問題がないと考えられる、低頻度反復刺激(1 ヘルツ未満)の磁気刺激法を日本臨床神経生理学会のガイドラインに準じて用い、顔面神経麻痺の回復を促進させるか検討した。 具体的には、リハビリテーションとしてTMSと末梢神経電気刺激を組み合わせた連合性対刺激(TMS-PAS)を用いた。被験者の顔面神経下行枝ないし大頬骨筋、口角下制筋の支配神経を電気刺激し、その20ミリ秒後のタイミングで大脳運動野にTMSを行い、この対刺激を0.2ヘルツで240回繰り返した(合計20分間)。大脳運動皮質-延髄投射を定量化するために、単発のTMSにより誘発される運動誘発電位(motor evoked potential; MEP)を連合性対刺激の前後に記録し(約5分間)、20回MEP振幅平均値の変化率を計測した。また、柳原法による顔面神経麻痺スコアの変化を顔面のビデオ撮影を行い、併せてTMS-PAS 施行前後に検討した。 TMS-PASは原則として1週毎に合計8回行った。コントロールとして、TMS-PAS治療を行わなかった17名の重度ウイルス性顔面神経麻痺患者を用いた。顔面神経麻痺スコアの変化を追跡したところ、顔面神経麻痺スコアは各回のTMS施行前後で概ね変化しなかったが、1症例において、1回、2点の上昇を認めた。また、検討を行った5名のうち、2名に随意運動の増大効果が見られた。顔面神経麻痺スコアが悪化した症例は認められなかった。
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