姿勢や歩行機能の障害が存続する難治化した慢性平衡障害者に対して前庭覚代行デバイス(Vestibular Substitution Tongue Device: VSTD)を用いるリハビリテーション治療の長期効果を調べるため、今年度1年間の研究期間を延長して治療後2年間の効果を調査した。 頭位の傾きを感知する加速度計からの情報を電気信号に変換して舌に設置したインタフェースに伝達する、VSTDのシステムを使用して、バランストレーニングを8週間行った。評価項目として、重心動揺検査から得られる30秒間の動揺軌跡長と歩行条件から点数化した歩行機能視標(30点満点)を用いた。治療直後には、重心動揺総軌跡長(cm/30 s)は237.5 ± 22.4 から 85.4 ± 15.4 に、歩行機能スコア(点)は、13.5 ± 1.5から23.5± 1.6にそれぞれ変化し 両者ともに著明な改善を示した。治療を終了しVSTDを取り外した後に、これらのパラメーターについて2年間追跡測定したところ、治療後2年の時点で、重心動揺総軌長(cm/30 s)は90.4± 16.2、歩行機能スコア(点)は22.1±3.3を示し、治療直後の改善は、2年間ほぼ変動なく維持された。本研究により、VSTDを用いると慢性の平衡機能障害に対する治療効果が2年間持ち越されることが分かった。 本デバイスを用いる感覚代行リハビリテーションは、キャリーオーバー効果を有し、高齢者など長期の治療継続が困難な症例に対しても有効となる新規治療法として期待される。
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