脱分化脂肪細胞(DFAT)は遺伝子操作やウイルスベクターを用いない簡便な方法で短時間に大量調整が可能であり、ドナー年齢や基礎疾患を問わずに調整でき、癌化する可能性も低く安全性が高い。DFATは本邦で研究が精力的に進められているiPS細胞と比較して格段に低コストであり、今後の臨床応用を考慮すると医療経済的に優位な再生医療資源であるといえ、中耳・耳管疾患のような非致死的疾患も十分に治療対象になりえると考えた。すでに重度熱傷、難治性腹圧性尿失禁、難治性骨折などに対する細胞治療、GVHD予防などの研究が進められている。 本研究はDFATを耳管粘膜下に移植することによりその組織増量効果および組織修復、リモデリング作用を利用した耳管閉鎖障害の治療法を確立するために開始された。第一に、これまで耳管閉鎖障害については信頼のおける適切なモデル動物が存在しなかった。そのためモデル動物の確立から行うこととなった。ラット下顎神経切断モデルを作製し、本研究機関全般を通じて形態学的および生理学的に解析した。受動的耳管開大圧の有意な低下をきたすことを学会発表した。さらに形態学的には、耳管周囲の軟部組織の著明な萎縮、耳管粘膜の分泌細胞の不変を明らかにし、研究成果を英文誌に投稿、受理された。さらに、DFATのラット耳管への移植方法を検討し細径内視鏡下に注入する手法を確立しつつある。 本研究年度では研究初年度に作製した耳管閉鎖障害モデル動物の形態学的評価、およびDFATのラット耳管への移植方法を確立するための研究を中心に行った。さらに、臨床的には耳管閉鎖障害のデータ解析を並行して行い、第119回日本耳鼻咽喉科学会、第28回日本耳科学会、第29回日本頭頸部外科学会でその成果を報告した。モデル動物作製、その再現性の検証に予想以上の時間を費やすこととなったが、将来的にDFATの耳管再生医療の実現に有意義な研究であった。
|