研究実績の概要 |
最終年度は内耳損傷によりおこる下丘における興奮性―抑制性ニューロンの活動バランス変化についての結果をまとめ論文発表した(Ma et al., Hearing Research, 2020)。またマウスの下丘ニューロンの基本的な性質として音エンベロープ内の両耳時間差の検出能を持つことを見出しこれを発表した(Ono et al., Hearing Research, 2020)。 研究期間全体を通じて下丘内の興奮性ニューロンと抑制性ニューロンの活動特性を明らかにすることができた。以下にその結果を要約する。1)下丘内の興奮性/抑制性ニューロンは場所依存的に様々な音反応特性を持つこと、2)局所回路内で興奮性/抑制性ニューロンは相同性の高い音受容野を持つこと、3)下丘ニューロンは麻酔による活動性修飾を強く受けること、4)正常な動物の下丘内では抑制性ニューロンは興奮性ニューロンに比べて高い自発活動をもつこと、5)内耳損傷により下丘内での興奮性/抑制性ニューロンの活動バランスに変化が起こり興奮性ニューロンの自発活動が亢進すること、などが明らかとなった。これらの結果から下丘においては局所回路において、脳幹からの入力が興奮性、抑制性の出力に変換されるがそのバランスが音の認知を形成する上で重要であることが推察された。またこのバランスは下位からの入力に依存した可塑的な変化を持つことが明らかとなった。この結果は、耳鳴等の内耳障害によっておこる疾患の原因を考えるうえで非常に重要な所見であると考える。
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