研究課題
老人性難聴(加齢性感音難聴、age-related hearing loss、AHL)を含めた加齢徴候の予防法解明は、生きとし生ける者の悲願であり、加速する人口老齢化の中で一層重要な課題である。SAMP1マウスは早期老化・AHLモデルで、ヒトと同じく胸腺萎縮と細胞(T細胞)性免疫低下を伴う。申請者はこのマウスにおいて、免疫若返り(同種骨髄移植、同系胎児胸腺移植、若い同系ドナーからのCD4+ T細胞接種など)にてAHLの予防ができることを明らかにした。さらに、CD4+ T 細胞のうち、Interleukin-1 receptor type 2+CD4+ T 細胞(T1R2)とnaturally occurring regulatory T 細胞(Treg)の両細胞集団が、加齢に伴い増加することを発見し、加齢促進の責任細胞であるという仮説を立てた。今回、ホストSAMP1マウスに、この両細胞分画を接種する、あるいは、この両細胞分画のない細胞分画を接種することで、AHLの促進・予防につながるかを検討した。平成28年度において予定通りに聴力検査(auditory brainstem response、ABR。click・4 kH・12 kH・36kH)と各種アッセイを行った。現在、蝸牛切片作製や血清NO測定・細胞分画の解析などを順次行っているところであるが、これまで判明した結果として、①T1R2やTregを接種されたマウスでは、AHLの有意な促進は一部の周波数に限られ、接種を受けないマウスと同程度のAHLを示した。これらの細胞のリンパ球内での割合もAHLの進行と有意な関係を認めなかった。②これに対し、T1R2とTregが除かれた細胞分画を、5ヶ月齢から4回にわたって接種された12ヶ月齢マウスでは、5ヶ月齢マウスに比しAHLの進行を認めず、AHLが有意に予防されていた。
2: おおむね順調に進展している
初年度(平成28年度)では、大学からの動物実験計画書認可に手間取り、マウス購入まで数ヶ月を要した。また、SAMP1マウスのAHLは5ヶ月齢前後で明らかとなりその後増悪するので、AHL 観察には2ヶ月齢で購入してもさらにおよそ10ヶ月の飼育が必要になる。こうした中で平成29年度はほぼ予定通りに実験を行うことができ、年度末にはABRも済ませることができた。平成30年度で今回の目的に合った研究をほぼ全うできると考えている。
「5か月齢の群」とともに、この群に比してAHLの進行が認められなかった「5か月齢からT1R2やTregのない細胞分画を接種された12ヶ月齢の群」を中心に検討する。また、「5ヶ月齢からT1R2やTregを接種された12ヶ月齢の群」や「5ヶ月齢から生食を接種された12ヶ月齢の群」、「難聴の認められない2ヶ月齢の群」も用いる。これらの群において、加齢とともに萎縮するSAMP1マウスの螺旋神経節細胞のHE染色・TUNEL染色・Caspase3染色を行う。血清NO測定、細胞分画検査(flow cytometry)やT細胞増殖能検査のデータ解析を行う。なお、今回の実験で胎児胸腺移植をされた群では有意なAHL予防を認めなかったので、今回の実験から除くこととした。今後データをまとめ、H30年度秋には科研費で申請した国際学会で発表するとともに論文化する。
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Molecular Neurobiology
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