我々は、16S rRNAメタゲノム解析手法を用いて、人間の中耳はこれまで考えられていたよりも多くの細菌種が存在することが明らかにしてきた。耳管は中耳と上咽頭を繋ぐ管であり、その機能は、慢性中耳炎など中耳疾患発症機序と大いに関連している。以下3つの項目より、中耳―鼻咽腔細菌叢関門としての耳管機能について考察した。 ①小児の中耳常在菌叢と上咽頭常在菌叢を比較:小児上咽頭常在菌は、Firmicutes門(F門)が78%を占め最も多く、Bacteroidetes門(B門)8%、Proteobacteria門(P門)5%、Actinobacteria門(A門)3%と続く。小児中耳常在菌叢は、P門が57%と最も多く、A門28%、F門8%、B門4%と続く。小児での上咽頭常在菌と中耳常在菌は、全く異なる構成となっている。 ②大人の中耳常在菌叢と上咽頭常在菌叢を比較:大人の上咽頭常在菌でも、F門が75%と最も多く占め、B門12%、A門4%、P門3%と続く。小児と大人で上咽頭常在菌に有意な差は認めない。一方、大人の中耳常在菌叢では、P門47%、A門29%、F門19%、B門3%となり、F門が増えることで、有意に小児中耳常在菌叢と異なる構成に変化する。 ③中耳常在菌叢を乳突蜂巣の発育程度で検討:乳突蜂巣の発育の悪いMC0-1では、P門76%、A門21%、F門3%であり、発育の良いMC2-3ではP門58%、A門15%、F門25%とF門の割合が増えていた。 これらの結果から、中耳常在菌叢はP門が優位であり、F門が優位である上咽頭常在菌叢とは、全く違う細菌環境である、②上気道炎などを契機に、F門が耳管と通じて中耳に入っていくこと、が考察される。中耳細菌叢中のF門の割合が、その人のこれまでの耳管機能を表しているのではないかと推測される。
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