研究課題/領域番号 |
16K11209
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
川岸 久太郎 信州大学, 学術研究院医学系, 准教授 (40313845)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 嗅神経細胞 / 嗅上皮 / ヒト / OMP / 嗅覚 |
研究実績の概要 |
鼻腔に存在する嗅神経は生涯にわたり神経再生が起こっており、嗅神経が投射する中枢神経系の神経再生とも相まって、神経再生の研究モデル部位として注目されている。我々は現在までマウス及びラットの鼻腔において嗅覚を司る嗅神経細胞の存在する嗅上皮について機能している成熟した嗅神経細胞に選択的に発現する Olfactory marker protein (OMP)を免疫組織化学的に染色する方法と、神経細胞の総数を正確に推定することができるステレオロジーの手法を用い、マウス成獣では一側鼻腔に約 500 万個の嗅神経細胞が 存在することやラットでは一側鼻腔で新生児期の約50万個から成獣の約 2000 万個まで 40 倍増加することを明らかとし、正確な基礎データを提供した。 しかし、これらの研究過程において、ヒトの鼻腔において嗅覚を司る嗅上皮は鼻腔上壁を中心として限局した部位にのみ存在していることは知られているが、現在までにその正確な分布は明らかにされておらず、また嗅神経細胞数についてはその密集した構造から正確な計測がなされていないことが明らかとなった。 このため、我々はヒトにおける嗅神経細胞・嗅上皮の分布と総嗅神経細胞数を明らかとするためにヒト鼻腔全体を標本として摘出し連続切片を作成した。 これらの結果、ヒト嗅上皮は前方では鼻腔上壁から外側壁へと広がっているのに対し後方では主として鼻腔上壁から鼻中隔側に広がっており、前方と後方で分布が異なることが明らかとなった。現在総嗅神経細胞数の計測を、抗OMP抗体を用いた免疫組織化学染色法とステレオロジーの手法を用いて実施中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までにヒト鼻腔の標本採取を、64体より実施した。解剖体は固定状況等が個々の御遺体により大きく異なるため、全てが免疫組織化学的手法を用いた研究に適しているわけではないため、これらの採取標本の鼻粘膜の一部を用いて免疫染色の染色性を評価する予備実験を実施した。その結果、染色性の保たれているヒト鼻腔標本を12体確保している。 また染色性が確認された鼻腔標本については鼻腔周囲の骨をまとめて採取しており、そのままでは連続切片の作成が不可能であるため、EDTAバッファーを用いて3~4か月にわたる脱灰過程をおこない、パラフィンブロック作成後、ステレオロジー計測に適した形での連続切片作成を行っている。 連続切片の一部はヘマトキシリン=エオジン染色を行い、構造を同定するとともに、免疫組織化学的手法を用いてOlfactory marker proteinを指標とした成熟嗅神経細胞の同定、並びにPGP9.5を指標とした嗅神経細胞の同定を行っており、嗅神経細胞が分布する部位、すなわち嗅上皮の同定に成功している。
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今後の研究の推進方策 |
我々は現在採取したヒト鼻腔標本の一部については薄切連続切片を作成しており、ヘマトキシリン=エオジン染色や抗OMP抗体を用いた免疫組織化学染色は実施している。しかし、ヒト鼻腔の構造はマウスやラットと比較すると大きく、ステレオロジー学的解析をする際に必要な連続切片の作成に時間がかかるため、平成29年度は残りのヒト鼻腔脱灰標本の連続薄切切片作成を実施する。 さらに連続薄切切片に対し抗OMP抗体や抗PGP9.5抗体を用いた免疫組織化学区的染色を行う予定である。 また、一部染色済みの切片に対してはKeyenceBZ7000顕微鏡を用いた表面積測定を行うとともに、Stereoinvestigatorを用いたステレオロジー法による総神経細胞数の推計を実施する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
標本採集に主として時間がかかったためと、主研究者の所属変更があることが分かっていたために実験機器等を購入した際に新たに移動費用などが発生することが分かっていたために購入を延期したものがあったため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度の繰越金は平成29年度の請求額と合わせて新たな実験器具等の購入を行う。 また、変更後の所属機関にはない研究機器を変更前の大学の施設を利用して研究を行う必要があるため、大学の規定により機器借用代金等に充当する予定である。
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