鼻腔に存在する嗅上皮の嗅神経細胞は生涯にわたり神経再生が起こっている特殊な神経細胞であり、嗅上皮は嗅神経が投射する中枢神経系の神経再生とも相まって神経再生のモデルとして注目されている。このため、我々は現在までマウス及びラットの鼻腔において成熟した嗅神経細胞に選択的に発現するOlfactory marker protein(OMP)を免疫組織化学的手法により染色する方法と神経細胞総数を正確に測定できるステレオロジー(Stereology)の手法を用いて、その嗅神経細胞総数がマウス成獣では一側約200万(但し新生児期は一側約50万個)、ラット成獣では一側約500万個であることを明らかにした。 ヒト嗅上皮に関しては、嗅覚の異常が新型コロナウイルス感染や中枢神経変性疾患との関係により注目されているにもかかわらず、ヒト鼻腔において嗅覚を司る嗅神経細胞数が正確に計測されておらず、またその分布もはっきりしていないことが明らかになった。 この為、我々はヒト鼻腔における嗅上皮の分布と、そこに存在する嗅神経細胞の総数を明らかにするためにヒト鼻腔全体を標本として解剖体より摘出し連続薄切切片を作成し免疫組織化学染色及びステレオロジーの手法を用いて観察を行った。 この結果、ヒト嗅上皮ではヒト嗅神経細胞の総数は一側で約630万個、両側で約1260万個であることを明らかにした。その内、嗅球に投射している成熟した嗅神経細胞数は一側で約430万個、両側で約860万個であることを明らかにした。
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