抗HMGB1抗体による嗅神経再生促進を組織学的、電気生理学的、行動学的実験により確認した。 電気生理学的検証は以下のように施行した。まず平成29年度、30年度と同様に、全身麻酔下で嗅神経切断手術と抗HMGB1抗体投与をOMP-tau-lacZマウスに施行し、術後100日目に同様にマウスに麻酔し、固定器に固定して再開頭した。鼻骨も一部削開し、鼻腔を露出させ、鼻腔の嗅粘膜に刺激電極を当て、嗅球内に記録電極を挿入し、神経の電場電位(Field potential)記録を行い、神経伝導の回復の有無を確認した。その結果、IgG投与のコントロール群は神経伝導の回復が不十分であったのに対して、抗HMGB1抗体投与群は有意に神経伝導の回復が認められた。 行動学的実験による検証は以下のように施行した。まず、マウスに0.01%ナラマイシン(シクロヘキサミド)水溶液を用いて条件付けの嫌悪学習を施行した。 次に、嫌悪学習に成功したマウスに対して、嗅神経切断と抗HMGB1抗体投与を行い、術後経日的にナラマイシンに対する忌避行動の程度を確認し、嗅覚機能の回復の有無を確認した。その結果、IgG投与のコントロール群は嗅覚機能回復が不十分であったのに対して、抗HMGB1抗体投与群は有意に嗅覚機能の回復が認められた。 以上から、HMGB1阻害により、嗅覚は神経の形態的再生だけではなく、機能的再生も促進されることを明らかにした。この結果を論文にまとめて、Journal of Neuroinflammationに掲載された。その過程で、嗅神経切断時のHMGB1の局在を示す追加の組織学的実験も遂行し、その証明もした。
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