研究課題/領域番号 |
16K11213
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
竹野 幸夫 広島大学, 医歯薬保健学研究科(医), 准教授 (50243556)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 一酸化窒素 / 鼻アレルギー / 副鼻腔炎 / 好酸球 / スカベンジャー受容体 / 前頭洞 / 鼻腔局所NO |
研究実績の概要 |
一酸化窒素(NO)は、ヒトの生理機能と炎症の修飾に深く関与している内因性調節因子である。NOは簡便かつ非侵襲的に測定できることより、気道領域におけるバイオマーカーとして活用されつつある。本研究では患者数の増加と重症化が問題となっている上気道のアレルギー性・好酸球性炎症におけるNO測定法・標準値の確立と治療への応用を目的として下記の研究を行った。1)ヒト副鼻腔各洞、特に前頭洞におけるNO産生能とサイトカイン・成長因子発現の関連性、2)前年に継続してレドックス制御から見た一連のスカベンジャー受容体(SR)のゲノム解析と遺伝子レベルにおける発現とNO産生・代謝との関連性、3)鼻腔局所NO(nasal NO)を測定する手技を用いた鼻アレルギー(AR)並びに好酸球性副鼻腔炎症例を対象とした治療効果の検証、4)新たな研究対象として副鼻腔炎の難治化、遷延化に及ぼす上部消化管の影響、すなわち胃酸逆流(GERD)、咽喉頭逆流症(LPRD)に着目した。そして基礎的・臨床的に一連の検討を開始した。 その結果、1)好酸球性副鼻腔炎(ECRS)症例の前頭陥凹粘膜では、上皮細胞と粘膜下腺細胞の細胞質により強くIL-5とIL-6の発現と産生亢進を認めた。2)SR受容体の中ではLOX-1が、好酸球関連サイトカインであるCCL26(eotaxin 3)、GM-CSF と共にECRS症例において発現が亢進している傾向を認めた。3)AR症例に対する鼻噴霧ステロイド剤(INS)使用により臨床効果の改善を認めた。同時に下鼻甲介表面NO(IT area)は、投与前に比較して2 カ月後には有意な低下を認めた。一方で、中鼻道NO(MM area)は上昇する傾向を認めた。4)H pylori陽性所見は、免疫組織学的に鼻茸や篩骨蜂巣を主体に観察され、同時に鼻腔内のurease活性にも相違が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
鼻呼気NO(nasal FeNO)に関して、ROC曲線からのcut-off値の設定を行ない、鼻アレルギー診断における客観的パラメータとしての有用性をほぼ樹立した。さらに、前年度までに確立したヒト鼻副鼻腔の解剖学的特徴をふまえたnasal NO測定法を用いて、アレルギー治療薬である鼻噴霧ステロイド(INS)の治療効果の指標としての位置づけを前向き研究にて検討中である。これまで得られた結果は、既知の各種ガイドライン記載と矛盾しないものであり、新たな知見が得られた。 さらに鼻副鼻腔におけるNO産生・代謝の生理学的意義と本質的役割を総括する目的で、一連のスカベンジャー受容体(SR)のゲノム解析と遺伝子レベルでの発現と関連性についての基礎的研究を継続している。さらに副鼻腔炎の難治化と鼻茸成因の因子として、新たな研究切り口として胃酸逆流(GERD)、咽喉頭逆流症(LPRD)に着目し、疫学データの収集と探索的な検討を開始しており、今後のシーズとして構想を練っている。
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今後の研究の推進方策 |
1)「鼻副鼻腔におけるNO測定方法の標準化と、アレルギー・好酸球性炎症の客観的バイオマーカーとしての疾患特異性の検証」 これまでに解明した一酸化窒素(NO)の産生・代謝機構を基盤に、FeNO, nasal NO濃度をもとにした検査法の臨床応用を目指す。に副鼻腔炎病態のphenotypeの鑑別に本パラメータが有用かどうかの解析に重点を置く予定である。そして臨床症状・所見との関連性について症例数を増やし解析と総括を行う。 2)「レドックス制御からみたスカベンジャー受容体の発現とNO産生代謝機構についての検討」 スカベンジャー受容体(SRs)は、従来より動脈硬化、炎症性腸疾患、アルツハイマー病などの病態形成に深くかかわっていることが報告されているが、上気道炎症との関連性についての報告はまだ存在していない。NOが有する炎症メディエータとしての作用との関連性を検討し、過剰NO産生を制御することにより副鼻腔の遷延化を防止する新たな治療の可能性を模索する。 3)「副鼻腔炎の難治化、遷延化に及ぼす胃酸逆流、咽喉頭逆流症の影響の萌芽的検討」 慢性副鼻腔炎における鼻茸の成因に、GERDとH pylori感染が関与しているとの仮説を検証する。H pylori感染を免疫染色および迅速ウレアーゼテスト、PCR法にて検証する。もしこの研究により、何らかの因果関係が立証されると、「one airway one disease」に加えて「one tract one disease」の新規概念が提唱されることとなる。 4)「鼻アレルギー(AR)症例を対象とした治療効果とnasal NOについての臨床研究」 現在データ解析と論文投稿準備中である。鼻噴霧ステロイド剤(INS)使用により鼻腔NO濃度について、興味深い結果が得られた。これらの結果をもとに、鼻副鼻腔NOの機能的意義を総括する予定である。
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