本年度も上気道のアレルギー性・好酸球性炎症における一酸化窒素(NO)測定法・標準値の確立と治療への応用を目的として一連の研究を行った。1)鼻副鼻腔における局所NO濃度測定と治療効果への反映、2)レドックス制御からみた組織・血管障害について、スカベンジャー受容体(SRs)を中心とした検討、3)副鼻腔炎の難治化、遷延化に及ぼす胃酸逆流の影響の検討、を行った。同時に副鼻腔炎症例の臨床データ収集を行ない、JESREC診断基準の妥当性について検証した。そして臨床応用として、4)好酸球性副鼻腔炎に適した手術療法に関して当科における内視鏡下副鼻腔手術(ESS)の標準術式の確立と、前頭洞病変に対する遊離粘膜弁の狭窄予防効果について検討した。 その結果、1)鼻アレルギー(AR)症例と健常例における鼻腔NO値を部位別に測定すると同時に、薬物療法による変化を検討した。その結果点鼻ステロイド(INS)投与後2カ月で、AR症例では下鼻甲介表面(IT area)で有意な低下を確認した。2)副鼻腔粘膜における3種類のSRs(MSR1、SCARB1、LOX-1)の中では、LOX-1遺伝子が対照群に比較して、ECRSとnon-ECRSの篩骨洞粘膜で有意に発現亢進が認められた。また免疫組織学的にマクロファージなどの炎症細胞、並びに血管内皮にLOX-1発現陽性所見を認めた。蛋白assayの結果でも副鼻腔炎症例でLOX-1濃度が有意に高値を示しており、術前のCTスコアと有意な正の相関が見られた。3)胃酸逆流の影響に関しては、ウレアーゼの酵素反応陽性は鼻茸や篩骨蜂巣領域が主体であった。またH pyloriに対する免疫染色でも同様の結果が得られた。また4)前頭洞単洞化手術(EMLP)における遊離下鼻甲介粘膜弁の有用性の評価では、粘膜弁使用例は全例排泄路が確保されており、本術式は術後排泄路閉塞の予防に有用であった。
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