研究課題
頭部外傷は嗅覚障害の三大原因の一つである。頭部外傷によって引き起こされた重篤な嗅覚障害は、通常の感冒後あるいは呼吸性嗅覚障害に対する治療法に反応しにくいことが知られており、外傷性嗅覚障害の3割強しか改善がみられないと報告されている。病理学的には外傷による脳の損傷部位に対し、組織の治癒過程の一つとしてその周囲に炎症反応とともにマイクログリアが集まる。マイクログリアは豊富なベンゾジアゼピン受容体を持つため、そのアゴニストであるPK-11195をラジオアイソトープで標識した、11C-PK-11195を作成し、これを用いてPositron Emission Tomography(PET)を撮影することにより、脳の損傷部位の治癒過程を明らかにすることを目的とした。これまでに5名の外傷性嗅覚障害の患者に、6ヶ月の間隔で2回PET検査を実施した。嗅覚機能は基準嗅力検査で測定した。いずれも、嗅覚低下をきたす鼻副鼻腔疾患や神経変性疾患を有さないことが確認されている。嗅覚機能の回復が比較的よかった症例では、PETで鼻腔および嗅球のシグナルが増強しており、この領域にマイクログリアが集合し、組織の回復が生じていることが明らかになった。彼らはにおいの検知能力はほぼ正常に回復していたが、においの同定をする認知能力は依然として低かった。一方で年齢が高めで、嗅覚改善が見られなかった症例では、PET検査においても明らかな集積を認めなかった。以上のように、外傷性嗅覚障害の治癒過程では、まずにおいの検知の関連領域において修復が起こり、検知能力が先行して改善することがPET検査によって明らかになった。
3: やや遅れている
頭部外傷によって嗅覚障害をきたした患者をリクルートしているが、研究に適した症例が集まらず、また協力を得られないこともあり、遅れ気味である。
脳神経外科医に協力をさらに依頼すること、頭部外傷の症例が比較的多い病院に協力を依頼するなど、症例数を増やす工夫をする。
研究に適した症例がなかなか集まらず、また協力が得られにくく、研究の進捗が遅れている。経費は被験者の協力に対する謝礼およびPETのための経費であるため、次年度の研究においても不可欠な経費である。
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
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