研究課題/領域番号 |
16K11224
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
吉川 直子 千葉大学, 医学部附属病院, 医員 (50400924)
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研究分担者 |
関 直彦 千葉大学, 大学院医学研究院, 准教授 (50345013)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | マイクロRNA / 頭頸部扁平上皮癌 |
研究実績の概要 |
頭頸部扁平上皮癌の治療において、遠隔転移の制御を含めた治療抵抗性の克服は非常に重要な課題である。近年、頭頸部扁平上皮癌の新たな治療戦略として、EGFR(Epidermal Growth Factor Receptor)阻害剤が登場した。しかし、治療過程において癌細胞は治療抵抗性を獲得し、再発や遠隔転移をきたす。治療抵抗性に至った癌細胞を最新のゲノム学手法で解析し、治療抵抗性および遠隔転移の分子メカニズムを解明し理解する事が必要である。 マイクロRNAは機能性RNAの発現制御をしており、細胞内では、マイクロRNA-機能性RNAの極めて複雑な分子ネットワークが形成されている。そのため、癌に関与するマイクロRMAを見出し、マイクロRNAが制御する分子ネットワークを探索する事により、癌細胞の特徴を理解する事が出来る。 本研究では、EGFR阻害剤併用放射線治療後に治療抵抗性を獲得した頭頸部扁平上皮癌組織を用いて、RNA-sequenceにより、頭頸部扁平上皮癌・マイクロRNA発現プロファイルを作製し、頭頸部扁平上皮癌の機能性ネットワークの探索を行った。 発現が抑制されているマイクロRNAから、miR-26a/b、miR-29a/b/c、miR-218に着目し、これらの機能解析を実施した。マイクロRNAを頭頸部扁平上皮癌細胞に核酸導入する事により、癌細胞の遊走能、浸潤能を顕著に抑制する事が明らかになった。更に、これらマイクロRNAが制御する分子ネットワークを探索した結果、ECM(Extra cellular matrix)の生合成に関与するLOXL2(Lysyl oxidase-like 2)や細胞外マトリックス受容体であるITGB1(integrin β1)を抑制する事が明らかになった。最近の研究から、細胞外マトリックスの発現異常は、癌細胞の増殖や浸潤に関与する事が示されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分子標的薬(セツキシマブ)併用放射線治療後に再発した頭頸部扁平上皮癌組織を用いて、頭頸部扁平上皮癌・マイクロRNA発現プロファイルを作製した。このプロファイルに基づき、癌抑制型マイクロRNAの探索に成功している。更に、マイクロRNAが制御する分子ネットワークの探索を行い、頭頸部扁平上皮癌における癌促進型遺伝子を見出した。 (miR-26a/b、miR-29a/b/c、miR-218の機能解析) 頭頸部扁平上皮癌・マイクロRNA発現プロファイルより、癌組織で発現が抑制されている、miR-26-a/b、miR-29a/b/c、miR-218に着目し、癌抑制機能と、これらマイクロRNAが制御する分子ネットワークを探索した。頭頸部扁平上皮癌細胞株にこれらマイクロRNAを導入する事により、癌細胞の遊走能、浸潤能を抑制した事から、これらマイクロRNAは、癌抑制型マイクロRNAである事を証明した。更に、これらマイクロRNAが制御する分子ネットワークを探索した結果、ECMの生合成に関与するLOXL2を抑制する事を明らかにした。 (miR-29a/b/cが制御する分子ネットワーク) miR-29a/b/cが制御する分子ネットワークを再検討し、Focal adhesion経路に含まれる細胞外マトリックス受容体であるITGB1を、標的遺伝子として抑制している事を見出した。ITGB1は頭頸部扁平上皮癌で高発現しており、癌促進機能を有する事が明らかになった。また、ITGB1のノックダウンにより、AKT,FAK,ERK1/2のリン酸化が阻害された事を確認した。この経路は、今後の治療標的になり得ると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、RNA-sequenceにより、頭頸部扁平上皮癌・マイクロRNA発現プロファイルを作製し、発現が抑制されているマイクロRNAの機能解析から、複数の癌抑制型マイクロRNAを探索してきた。 マイクロRNAは機能性RNA(タンパクコード・非タンパクコード遺伝子)の発現制御をしており、一つのマイクロRNAが複数の機能性RNAの発現を制御する事が特徴で、細胞内では、マイクロRNA-機能性RNAの極めて複雑な分子ネットワークが形成されている。そのため、癌に関与するマイクロRMAを見出し、マイクロRNAが制御する分子ネットワークを探索する事により、癌細胞の特徴を理解する事が出来る。 今後の研究方針として、癌抑制型マイクロRNAが制御する分子ネットワークの探索を継続し、頭頸部扁平上皮癌に特徴的な、癌分子経路を明らかにしていく予定である。治療への発展を考慮し、既存の治療薬の適応拡大の可能性など、その経路を遮断する戦略を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由)マイクロRNAの機能解析に使用する試薬や消耗品が、他の研究と共有できたため、研究費の節約が可能であった。 使用計画)今後の癌抑制型マイクロRNAが制御する分子ネットワークの探索のため、マイクロRNAを核酸導入した細胞の遺伝子発現解析を行う予定である。この解析に使用する消耗品・核酸試薬費用と、遺伝子発現解析の外注費用に充てる。
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