頭頸部扁平上皮癌の進行症例や遠隔転移をきたした症例の予後は極めて不良であり、これら症例に対する有効な治療法が求められている。上皮成長因子受容体(EGFR)を標的とした分子標的治療薬(セツキシマブ)が、頭頸部扁平上皮癌の新たな治療選択として使用可能となり治療効果を上げている。しかしながら、治療効果が乏しい症例や、治療後に再発をきたす症例も少なからず存在する。治療抵抗性を解除して、再び癌細胞の増殖・転移を抑制するためには、治療抵抗性の分子メカニズムの解明が必要である。 マイクロRNAとよばれる19-23塩基の小さなRNAは、機能性RNA(タンパクコード・非タンパクコード遺伝子)の翻訳阻害や直接分解によりその発現を制御している。1つのマイクロRNAは、極めて多くの機能性RNAの発現を制御するため、細胞内ではマイクロRNA-機能性RNAの複雑な分子ネットワークが形成されている。ヒトゲノム中の60%のタンパクコード遺伝子は、マイクロRNAによる発現制御を受けているため、マイクロRNAの発現異常は、ヒト癌を含む様々な疾患に関与している。 本研究では、セツキシマブ併用放射線治療後に再発した頭頸部扁平上皮癌組織から、「頭頸部扁平上皮癌・治療抵抗性マイクロRNA発現プロファイル」を作成した。本プロファイルは、次世代シークエンサーを用いた、全ゲノムを対象とした解析のため、これまで頭頸部扁平上皮癌において報告のないマイクロRNAが多数含まれており、研究を遂行するにあたり、大きなアドバンテージである。本プロファイルから、発現が抑制されているマイクロRNA(miR-145-3pおよびmiR-144-5p)に着目し、これらマイクロRNAの機能解析を施行し、癌抑制型マイクロRNAである事を証明した。また、これらマイクロRNAが制御する癌促進型遺伝子を探索した。
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