サイトカインシグナル伝達の異常は癌の発症や増殖に関与していることが知られている。サイトカインシグナル伝達系のひとつであるJAK/STATシグナル経路は頭頸部癌をはじめとする多くの悪性腫瘍において活性化され、サイトカインシグナル阻害分子(以下:SOCS)はその活性化を抑制することが知られている。頭頸部癌に対するより低侵襲な治療法の開発を目指して、SOCSを用いた遺伝子治療に関する分子生物学的研究を計画した。 頭頸部癌細胞株のうち、SOCS3の発現低下している細胞株(SCC-22Bおよび8505c)に、アデノウイルスベクターを用いてSOC3遺伝子を導入したところ、いずれの細胞株においても蛋白レベルでSOCS3の発現が確認された。in vitroでのSOC3遺伝子導入を行った結果、8505c細胞株において細胞増殖が抑制された。また、SOC3遺伝子導入によりSTAT3の発現が低下しており、JAK/STATシグナル経路が抑制される可能性が示唆された。現在このメカニズムについて解明するために実験を継続し解析中である。また、メチレーション特異的PCRを用いて、SCC-22Bおよび8505cのメチレーションの状態を確認したところ、SOC3遺伝子のメチレーションが確認され、発現低下の要因であると考えた。脱メチル化の目的で5-Aza(アザシチジン)を投与した結果、蛋白レベルでSOCS3の発現が復活した。さらに、in vivoでの実験を進めている。
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