研究課題
がんの脅威はその転移によるところが大きい。これに対して細胞増殖の抑制を宿命として背負う我々のような多細胞生物は、組織構築の破綻を防ぎがんの進行に対して制限をかける多くの機構をもっている。そのためがん細胞といえど転移を成功させることは容易ではなく、実際に転移先臓器においてマクロの転移巣の形成にいたるものは、潜在的に転移機能を持つ細胞のうちわずか0.02%にとどまるとの算出もなされている。こうした中で転移に成功するがん細胞は、転移に先立ち転移標的となる組織を転移に適した状態に誘導・改変し、防御系細胞からの排除を逃れると考えられる事例が示されてきている。申請者らの研究グループはこれまでに、高転移性ヒト口腔扁平上皮がん細胞SASL1mを用いたリンパ節転移モデルを構築し、腫瘍原発巣から遠隔の転移標的リンパ節に対する働きかけについて検討してきた。その結果、腫瘍細胞が転移に先立って標的臓器の組織構築を転移に好適なものに改変する液性因子を分泌することを突き止め、パスウェイ解析と組み合わせたアレイ解から、候補物質としてリジルオキシダーゼ様酵素2(LOXL2)、TGFβ1ら四つの因子を見出し報告した。さらにこのLOXL2が蛋白質としても転移性扁平上皮がん細胞から特異的に分泌さていることと、それがエクソソーム分画に存在することを見出した。申請者らは現在までに、頭頸部がん患者の血清中のエクソソーム分画からLOXL2検出に成功している。この解析には「検出されLOXL2量が、健常者と比較して転移リスクを持つ患者血清において高いという仮説」をもって臨んだが、リンパ節転移を持つ症例についてLOXL2高発現を認めたことに加え、転移を持たない初期がんには低発現を認めた。
2: おおむね順調に進展している
LOXL2 ノックダウン SASL1m を上記モデル系にかけ、転移率を測定する。親株細胞、および標的遺伝子を持たない配列の shRNA を発現する細胞においても同様に転移率を測定し、比較対象としノックダウンによる転移率低下を観察した。準備するモデル動物の血清よりエクソソーム画分を調製し、イムノブロッティングにより LOXL2 レベルを比較・測定した。
耳鼻咽喉科を受診している扁平上皮がん患者および健常者について、ヒト検体の収集とエクソソーム画分の調製を開始し、エクソソーム蛋白質あたりの LOXL2 量をイムノブロット法により逐次測定する。データの収集に時間を要することが予想されるため、この作業自体は初年度から始めておき、解析を次年度以降に行う。患者の予後についても追跡することに留意し、次年度以降の解析項目とする。
実験器具の購入予定予定であったが未購入であったため
前年度未購入であった実験器具の購入を行う
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Biochemical and Biophysical Research Communications
巻: 486 ページ: 101-107
https://doi.org/10.1016/j.bbrc.2017.03.007