過去約18年間に当科で加療した耳下腺癌新鮮症例は181例を対象とした。T分類別ではT1が24例、T2が81例、T3が25例、T4が51例であった。術前にリンパ節転移陽性と診断した例は47例(26.0%)であった。悪性度別にみると、低悪性が18例、中悪性が86例、高悪性が77例であった。主な組織型は粘表皮癌が47例、多形腺腫由来癌が27例、腺様嚢胞癌が21例、唾液腺導管癌が14例であった。腺房細胞癌22例を再検討した結果、そのうち分泌癌が11例あった。Human epidermal growth factor receptor type 2(HER2)およびAndrogen receptor(AR)の発現について検討した。171例中免疫染色を施行しかつ転帰が明らかであった107例について検討したところ、HER2は陽性例が15例、陰性例が92例であった。それぞれのDSSおよびDFSは、HER2陽性例では57.0%、33.0%、陰性例では95.6%、87.0%であった。HER2陽性例では予後が著しく不良であった(p<0.001)。ARは陽性例が15例、陰性例が92例であり、それぞれのDSSおよびDFSは、67.1%、55.0%および93.6%、82.4%であり、AR陽性例では予後が著しく不良であった(p<0.001)。HER2陽性例15例について病理組織学的にみると、唾液腺導管癌が5例、多形腺腫由来癌が6例、扁平上皮癌、粘表皮癌、基底細胞癌、腺癌(NOS)が各1例であった。悪性度別では高悪性が13例であった。ステージ別ではステージⅠが2例、Ⅱが3例、Ⅲが2例、Ⅳが8例であった。HER2陽性例はすべて男性であった。HER2とARの発現は予後と相関しており、抗HER2(トラスツズマブ)あるいは抗AR療法の可能性を示唆しており、今後の耳下腺癌における新規治療として期待される。
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