研究課題
研究協力者との詳細な議論を経た上で、界面化学の理論に基づいて、まず、5つの涙液層の破壊パターン(area、line、spot、dimple、random)が存在しうることを予想した。次に、涙液層のフルオレセイン染色による破壊パターンが、上記5つのいずれかを示す各種ドライアイ[涙液減少型ドライアイならびにBUT(breakup time)短縮型ドライアイ]を対象に、文書同意を得た上で、ドライアイ症状の種類と程度、涙液油層の干渉グレードおよび伸展グレード、非侵襲的涙液層破壊時間、フルオレセイン破壊時間、角結膜上皮障害スコア、シルマーテストI法を検査して評価し、それらの結果から、各涙液層の破壊パターンの相違を判別解析を用いて検討した。その結果、界面化学の理論に基づいてメカニズム的に異なる5つの涙液層の破壊パターンが、異なるドライアイのサブグループ(涙液減少型ドライアイ、水濡れ性低下型ドライアイ、蒸発亢進型ドライアイ)を構成することが明らかになった。そして、この結果は、涙液層の破壊パターンの評価が、ドライアイのサブタイプの診断、眼表面の不足成分の看破および不足成分を補う治療の指針となることを示すものと考えられた。さらに、本研究の成果を応用して、ソフトコンタクトレンズ表面の涙液層の破壊パターン分類を検討したところ、ソフトコンタクトレンズ表面の涙液層が7つの破壊パターンに分類できる可能性が見出された(上記5つに加えて、薄い液層のみが破壊するパターンおよびソフトコンタクトレンズ表面に涙液層が見られないパターン)。
2: おおむね順調に進展している
近年、眼表面の不足成分を補うことで涙液層の安定性を最大限に高めてドライアイを治療するというドライアイ治療の新しいコンセプトが登場し、眼表面の層別治療(TFOT:tear film oriented therapy)と名付けられている。しかし、この治療コンセプトが成功するためには、眼表面に不足する成分を看破する方法である眼表面の層別診断(TFOD:tear film oriented diagnosis)が必要となる。今年度の最大の目標は、界面化学の理論に基づいて、フルオレセインを用いた涙液層の破壊のパターン分類を確立することであったが、理論的に予想した涙液層の破壊パターンが異なる病態に基づく、異なるドライアイのサブタイプ(涙液減少型ドライアイ、水濡れ性低下型ドライアイ、蒸発亢進型ドライアイ)を構成することを明らかすることができ、最大の課題を達成できたと考えている。また、今回見出した5つの涙液層の破壊分類を用いて、理論的に、眼表面の不足成分を看破でき(area:水分の欠損、line:水分の不足、spot:膜型ムチンの障害、dimple:膜型ムチンの障害、random;油層あるいは分泌型ムチンの障害)、TFOTによる治療選択が提案できるようになると考えている。一方、ソフトコンタクトレンズ表面の涙液層は、フルオレセインでは観察できないため、インターフェロメーター(市販機であるDR-1α)を用いた観察が有用であるが、それによる分類が完成したことにより、今後の研究の発展のための礎ができたと考えている。
涙液層の破壊パターンの分類から、水濡れ性低下型ドライアイという、これまでその重要性が指摘されていなかった新たなドライアイのサブタイプの重要性が明らかにされた。その一方で、このサブタイプは、我が国で発見され提唱されてきているBUT(breakup time)短縮型ドライアイの1つのタイプと言える。今後の研究では、フルオレセインによる涙液層の破壊パターンの分類に加えて、破壊後のフルオレセインの広がりを評価することで、角膜表面の水濡れ性評価を加えた形で、破壊パターン分類を発展させてゆく必要があると考えている。また、角膜表面に比べて、一般に、水濡れ性が低下しているソフトコンタクトレンズ表面における涙液層の動態を評価することで、水濡れ性の意義をさらに明確にできる考えており、多数の臨床例におけるソフトコンタクトレンズ表面の涙液層の破壊パターンを同様に評価し、破壊パターン分類を完成させてゆく予定である。さらに、研究協力者の協力のもと、培養角膜上皮細胞やソフトコンタクトレンズ表面に気泡法による接触角の測定を応用し、角膜上皮表面やソフトコンタクトレンズ表面の水濡れ性を制御するメカニズムを解明するとともに、水濡れ性を維持する方法を探索してゆく予定である。
平成28年度は、既存の検査機器を用いてドライアイに対して検査を行い、そのデータ解析を主体に臨床研究を進めたため、使用した助成金は、予定を下回った。また、マイボーム腺の脂質の動態解析は、研究協力者の協力のもと、ソフィア大学物理学教室の既存の計測機器を用いた予備的な研究を行ったのみであったため、基礎研究の必要経費も予定より下回った。平成29年度は、得られた知見をもとに、さらに発展的な研究を進め、研究協力者とのディスカッションの機会も多くなると考えられるため、そのための渡航、画像解析、論文作成、論文校正、学会発表をさらに進める必要があり、平成29年度は、助成金の使用額を使用する予定である。
論文作成、英文校正、統計解析、国内外での発表、ソフィア大学および新たに必要となると考えている研究協力者との会議を予定している。
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あたらしい眼科
巻: 34 ページ: 315-322
Ocul Surf
巻: 15 ページ: 65-76
10.1016/j.jtos.2016.09.003