研究実績の概要 |
網膜虚血性疾患のモデル生物として、高酸素誘導マウスモデル(OIR)を作成した。このモデルでは、生後7日齢(P7)の子供マウスを5日間、75%の高酸素条件下で生育した後、P12の時点で再び大気中に戻すことで病的血管新生を誘導する。ここで生じる新生血管はP17を境に消退していき、P25の時点で正常状態へと回復した。VEGFの転写量はP17をピークとして増加した。マウスの網膜血管は、生後一週間(P0-8)の段階で、表層において視神経乳頭を中心に放射状に伸長していくことが知られているため、P7を「生理的血管新生」のサンプル、P17 OIR を「病的血管新生」のサンプルと定義した。 P7、P12、P17、P25におけるControl群とOIR群について、マイクロアレイ解析を行い、病的血管新生の転写制御に関わるエピジェネティック因子の特定を試みた。その結果、生理的状況でのみ変動を示したものとしてAqp1, Btg1, Cxcr4, F3の4遺伝子、病的状況でのみ変動を示したものとしてAdmが抽出された。病的血管新生のピークであるP17の時点で発現量の変動が確認された1321プローブの中から、エピジェネティック制御に関わる遺伝子の抽出を行った。結果として、DNAのメチル化に関わる遺伝子の変動は確認できなかったものの、ヒストン脱メチル化に関わるKdm3aが有意に変動していることが見出された。以上の結果から、KDM3Aによる転写活性化が本疾患の病的血管新生の誘導に関わる可能性が示唆された。 これまでの眼科領域では、正常と病的血管新生どちらの状況においても血管新生の誘導は低酸素応答であり、転写制御の違いについては注目されてこなかった。本結果から低酸素応答の遺伝子の中でも、発現量の変化は状況に応じて「使い分け」されている可能性が示唆された。
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