【目的】加齢黄斑変性、糖尿病網膜症、網膜細動脈瘤破裂などが原因で起こる黄班下出血は、重篤な視機能障害を引き起こし難治である。現在、網膜下出血に対し組織プラスミノーゲンアクチベーター (tPA) 併用血腫移動術が行われており、良好な術後視力が得られることが報告されているが、tPAには毒性があることも知られている。そこで、tPAが網膜色素上皮細胞 (RPE)に与える毒性の程度についてin vitroで検討した。 【対象と方法】ヒトRPE、iPS-RPE、ARPE19にtPA(グルトパ)を添加した際の細胞毒性をMTS assayで評価した。濃度はこれまで臨床での使用が報告されている8.3μg/0.1mlおよび25μg/0.1mlを用いた。また、ヒトRPEにtPAの添加剤(L-arginineおよびポリソルベート80)を添加した際の細胞毒性もMTS assayで評価した。さらにヒトRPEにtPAを添加した際の細胞機能評価をELISAを用い血管内皮増殖因子(VEGF)と色素上皮由来因子(PEDF)の分泌量を測定して検討した。さらに、tPAによる細胞障害の原因について、従来報告された一酸化窒素 (NO) の関与を検討した。 【結果】ヒトPREではtPAによる時間依存性・濃度依存性の細胞毒性がみられた。iPS-RPE、ARPE19でも同様の傾向がみられた。ヒトRPEにL-arginineを添加すると濃度依存性の細胞毒性がみられたが、ポリソルベート80ではみられなかった。また細胞機能には変化がなかった。すべてのRPE細胞で、tPA濃度、負荷時間を変えて投与を行ったが、優位なNOの検出には至らなかった。 【結論】tPAによる細胞毒性の程度が明らかとなり、毒性の一部にL-arginineが関与している可能性が示唆された。
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