眼圧は房水の産生と流出により調節されているが、その均衡が破錠し房水流出抵抗が増加すると眼圧が上昇し、緑内障の発症および進行のリスクとなる。房水流出の主経路を構成する線維柱帯細胞は貪食作用を有しており、線維柱帯組織の異物を除去し正常な房水流出の維持に寄与していると考えられている。緑内障眼では細胞外基質の異常な蓄積による房水流出抵抗の増加が認められており、線維柱帯細胞の貪食能低下もその一因と考えられる。本研究ではアクチン細胞骨格に影響を与えるROCK阻害剤や、緑内障との関連が報告されている各種サイトカインの線維柱帯細胞の貪食作用への影響について検討を行い、その貪食作用を調節する分子メカニズムを明らかにすることで、線維柱帯細胞の貪食作用が関与する房水流出機構の解明を目指してきた。 本年度も昨年度より継続してRho-ROCKシグナルの線維柱帯細胞の貪食作用に対する作用を中心に検討を行った。RhoAを活性化させるリゾフォスファチジン酸(LPA)刺激により、線維柱帯細胞の貪食能は有意に低下するが、Rho阻害剤の添加やsiRNAによるRhoAのノックダウンによりLPAの貪食能低下が有意に抑制されることを明らかにした。さらにRhoのエフェクター分子であるROCKの阻害剤であるY-27632の添加によってもLPAによる貪食能低下を抑制できることを明らかにした。また、ステロイドであるデキサメサゾン刺激により線維柱帯細胞の貪食が低下することが報告されていたが、Y-27632はデキサメサゾンの貪食抑制作用を有意に抑制することを明らかにした。 ROCK阻害剤はすでに眼圧下降剤として臨床で使用されているカテゴリーの薬剤である。本研究から、線維柱帯細胞の貪食能の低下にRho-ROCKシグナルが関与していることが示唆され、臨床で使用されている薬剤により線維柱帯の機能改善が期待できる可能性が示された。
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