最終年度は、脳由来神経栄養因子(Brain-derived neurotrophic factor;BDNF))の遺伝子発現を抑制したマウス(BDNF STOPtetO マウス)を用いて、BDNFの遺伝子発現量と涙液分泌機構及び生理機能の変化をとらえ、その相互関係を明らかにすることを目的として実験を行った。BDNF の発現量を抑えたモデルマウスは野生型のマウスと比較して涙液量が有意に少ないことが確認された。本研究全体を通して、マウスに行動を制限し、顔に風を当てるストレス負荷を 4 時間与えたところ、涙液量が減少することを発見した。さらに、遊具を備えた広いケージで複数のマウスを一緒に飼育した「豊かな環境」(Enriched Environment)にいるとストレスによる涙液量減少が見られないこと、またストレスによって減少した涙液量は「豊かな環境」に移すことで回復が早くなることを発見した。さらにストレスを与えたときと「豊かな環境」にいるときでは、BDNFの脳における発現量に違いが見られ、ストレス負荷をした時、通常環境下では脳の BDNF 発現量が減少にするのに対し、「豊かな環境」飼育下では BDNF 発現量の減少は見られなかった。また、BDNF の発現量を抑えたモデルマウスでは涙液量が減少することを発見した。これらの結果より、環境因子によって涙液量は変化し、涙液量の分泌制御には脳の BDNF が関与している可能性が明らかになったといえる。
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