研究実績の概要 |
本研究の目的は、末期緑内障手術後(特に、線維柱帯切除後)の視野消失(wipe-out)の分子生物学的機序の解明である。 wipe-outを生じた症例に関し検討すると、多くが術前残存中心視野が線維柱帯切除術後、低眼圧症などを契機に消失する。しかしながら、OCT上は視神経変性、網膜神経節細胞変性は生じていないという特徴を持つ。一方で末期緑内障に対し術後低眼圧を生じずらい線維柱帯切開術を行った症例に関しては術後wipe-outを生じた症例は皆無であった。これらは術後低眼圧がwipe-outに寄与していることを示唆している。また、wipe-outを生じた症例は、術前眼圧が50mmHg以上と高値であった。つまり眼圧の急激な変動が網膜ー視神経ー外側膝状体へのシグナル伝達に何らかの悪影響を来し、更に伝達の休止状態を引き起こしているのではないかと考えられた。 wipe-outの分子生物学的機序解明のため、その動物モデルの作成及び網膜・視神経軸索内分子生物学的変化を捉えることを試みた。wipe-out類似動物モデルは、アルゴンレーザー誘導高眼圧ラット緑内障モデル(眼圧50mmHg以上を5週間維持)を作成後、前房内に34Gキャピラリーカニューラを挿入し結膜下に固定する。術中、前房消失予防として低分子粘弾性物質を前房内に少量投与する。コントロール群は、高眼圧ラット緑内障モデルとする。 網膜・視神経軸索内分子生物学的変化に関しては軸索流という点に注目し、輸送関連蛋白であるMotor proteins(kinesin,Dynein,Myosin)の生化学的変化を検討しているが、有意な変化は得られていない。この結果は、wipe-outに関し蛋白の発現変化より、機能障害、例えば他の蛋白への相互作用障害等が関わっていることが示唆された。
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