遺伝性網膜変性疾患における網膜視細胞変性の進行過程で網膜内にカルパインの活性が上昇することを以前我々の研究室にて明らかにした。さらに最近我々はカルパインのサブタイプのうちミトコンドリアカルパイン-1の活性を特異的に競合阻害するペプチド(カルパイン阻害ペプチド)を同定し、これが網膜変性ラットへの点眼投与によって網膜視細胞へ送達され、その部位で視細胞変性を阻害することを示した。そこで本研究課題ではカルパイン阻害ペプチドが遺伝性網膜変性モデルラットにおいて視細胞保護効果を示すかどうかを光干渉断層計(OCT)、網膜電図、組織所見および電子顕微鏡所見などを用いて解析することとした。とくに初期の点眼投与では煩雑な点眼作業を要し、手技そのものがあまり現実的ではないとの反省に立って、当該年度においてはカルパイン阻害ペプチドを除放するデバイスを作成して、これをラット眼球結膜下に埋植してその安全性と有効性とを検証することとした。 当該年度に行った研究では、第一にカルパイン阻害ペプチド除放デバイスが実際にラット眼球結膜下に埋植できるかどうか、第二に埋植した除放デバイスの安全性に問題はないかの2点に絞って実験を遂行した。その結果、生後20日のRCSラットの上方眼球結膜下に顕微鏡手術によってカルパイン阻害ペプチド除放デバイスを確実に埋植できることとと、デバイス埋植後4週間後でも埋植された野生型RCSラット眼球は非埋植の対照眼と比較して、何ら埋植そのものによる有害事象は確認されず、デバイス埋植の安全性が確認された。その視細胞保護効果については本研究に引き続く研究課題に引き継がれることとなった。
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