単眼でも様々な手掛り(陰影、肌理、動き、等)を用いて奥行知覚は可能であり単眼立体視と呼ばれる。単眼・両眼立体視は大脳皮質の異なってはいるが近接した視覚関連領域で情報処理が行われており、3次元形態認知に関連して相互に影響している可能性が考えられる。今回両眼立体視が障害される疾患の一つである斜視患者を対象に3次元形態認知を調べ、これら単眼性、両眼性の手掛りが3次元形態認知に及ぼす影響を検討した。 41名の斜視患者、年齢をマッチさせた20名の健常人を被験者とした。斜視患者のなかで21名が両眼立体視を持ち、立体視有群、20名が立体視無群として分類した。被験者には陰影、肌理、動き、両眼視差の要素で構成された3次元形態の中でどの位置が最も手前に飛び出しているか(=頂点)を示してもらう課題を行った。図形の実際の頂点と被験者が示した点とで3次元的なerror vectorを算出した。刺激画像が提示されている平面を基底とした場合のerror vectorの矢状面成分(z成分)及び横断面成分(x-y成分)を別々に検討した。横断面成分は被験者の応答のうち、95%が含まれる楕円を算出し、各群での大きさを比較した。 結果、陰影で構成された3次元形態認知で、立体視無群で健常群より矢状面成分の差が大きく、両眼視差で構成された場合では立体視有群で健常群より矢状面成分の差が大きかった。また横断面成分の検討では肌理で構成された場合に立体視有群、立体視無群双方ともに健常群より楕円が大きく、両眼視差で構成された場合に立体視有群で健常群よりも楕円が大きく、分布のバラつきが大きい結果となった。 単眼での手掛りがあったとしても両眼立体視の有無により3次元形態認知に差異を認める結果となり、これらの差異は既に明らかになっていた脳内での領域間における機能的情報処理の影響が関与していると考えられた。
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