研究課題/領域番号 |
16K11322
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
宮崎 大 鳥取大学, 医学部附属病院, 講師 (30346358)
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研究分担者 |
井上 幸次 鳥取大学, 医学部, 教授 (10213183)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 角膜内皮 |
研究実績の概要 |
前眼部サイトメガロウイルス(CMV)感染症の診断には、前房水のCMV-DNA量測定が必須の検査となっており病状の評価や予後予測にとって重要な役割をもつ。CMVコピー数の絶対値の正確さを評価するためCMV感染に対する前房水Real-time PCRを施行している4施設の協力のもと標準検体の検出レベルを評価した。ROC解析を含めた結果、CMV検出値の変動は、施設間の数値は数倍程度以内にとどまり、標準検体を用いることにより、より正確な標準化が達成できることが判明した。 CMVの角膜内皮への感染性及び病原性の評価を不死化ヒト角膜内皮細胞を用いて行った。角膜内皮細胞におけるCMVの増殖、さらに、角膜内皮における重要な免疫原性エピトープの発現を確認した。さらに、CMV及び単純ヘルペスを角膜内皮細胞に感染させたときにえられたトランスクリプトーム解析を行い、細胞死を引き起こしえる経路の候補同定を行った。CMVウイルス感染後において強いⅠ型インターフェロン応答が誘導されることから、これを介した細胞死経路の発動を想定した。次に、この経路の制御に中心的に関わる候補因子としてIRF7を同定した。初代角膜内皮細胞は、その増殖能の低さ及びトランスフェクションなどのマニピュレーションに対する脆弱性からその寄与を正確に検証することは非常に困難であるため、遺伝子編集技術によりIRF7欠損角膜内皮細胞の作成を試みた。まず、IRF7 CRISPRプラスミドをデザインし、不死化ヒト角膜内皮細胞へ導入した。次にクローニングを行い候補細胞株を確立しそのスクリーニング作業を行った。Westernブロット、Real-time PCRを用いてIRF7欠損レベル及びその安定性を評価した。以上によりIRF7欠損角膜内皮細胞株を樹立し、CMV感染後の炎症動態の制御にいかにかかわるかの解析に着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前眼部CMV感染症におけるreal-time PCRの診断に対する正確さをさらに評価するため症例の蓄積と経過観察期間の延長をはかっている。 これまで、CMV前眼部感染症に関して保険収載の薬剤はない。その治療は、適応外使用に頼っている状態であるが、実際にどういった薬剤をどのように使えば良いのかに関して十分なエビデンスは得られていない。保険収載を視野にいれた治療薬剤の開発をめざすため、ガンシクロビルゲル製剤の臨床評価に関わってきた。 角膜内皮細胞におけるCMV感染の動態に関しては、臨床分離株及びTB40/Eが実際に角膜内皮細胞に感染し、増殖しえることを確認したため、角膜内皮炎および眼圧上昇へいかに寄与しえるかの検証を始めた。 角膜内皮細胞に関しては、IRF7欠損角膜内皮細胞に樹立に成功した。そこでIRF7にかかわる経路が角膜内皮の免疫応答性にいかに寄与するのかの検証を始めた。IRF7経路がいかにウイルスに対する免疫応答に寄与するのかを検討するため、まず、感染力がより強い単純ヘルペスウイルス(HSV-1)を用いて、解析をすすめつつある。 CMVは、中年期以後は半数以上が既感染者となるが、なぜ一部の健康な成人にしか発症しないのか判明していない。我々は、この発症機序には、発症者と非発症者の間にCMV特異的な免疫機構に差があるのではと想定してその解析に着手した。とくにCMV特異的細胞障害性リンパ球に着目し、角膜内皮をいかに障害しえるかの解明をはかりつつある。CMV特異的な細胞障害性反応はCMVタンパク特異的であることが想定されるため候補エピトープのスクリーニングを行い、CMV感染角膜内皮細胞において候補エピトープが強度に発現しえることを確認し、さらなる検証をすすめている。
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今後の研究の推進方策 |
前眼部CMV感染症に対して、臨床でえられたデータの蓄積をはかり、予後や治療期間に関わる解析をすすめていく。これを推進するため、積極的な治験への関わりやより詳細な患者データの集積をはかる。 一方、これまでいくつかのCMV株を用いて解析を行ってきた結果、角膜内皮へのCMVの感染は緩慢であり、細胞障害性効果はきたすものの急速な感染の伝搬は起こりにくいことが判明してきた。臨床上、再発をきたす症例の中でCMVゲノムが検出されないケースがあることが判明してきた。つまり、CMV感染において角膜内皮が損傷をうける経路の一つは、ウイルスの増殖を伴わない障害であることが推定される。とくにCMVに感染した内皮細胞が細胞障害リンパ球反応(CTL)を刺激する経路がそのひとつであることが想定された。そこでCTLに対する刺激能力の評価を行う。これらの評価には、CMV既感染者おCMV角膜内皮炎の患者由来のCD8細胞を用いて評価を行っていく。 臨床的な所見の観察に基づくと、広範なCMV感染の伝搬がないにもかかわらず角膜内皮が損傷をうけている機序の発動も想定される。この機序は、局所のCMV感染により誘導された炎症応答の伝搬によるものではないかと推定している。つまり、これまでに同定した角膜内皮におけるⅠ型インターフェロン応答により、Necroptosisといった細胞障害性の非常に強いタイプの細胞死が誘導されている可能性がありこの経路の関与に関しても解析をすすめていく。 CMV前眼部感染症においては、眼圧上昇が特徴的であり、我々は、この場合、線維柱帯細胞が直接感染し破壊されているのではないかと推定している。この仮説のもと、CMVが線維柱帯に感染しえるかを検証するため、ヒト初代線維柱帯細胞を用いてCMVが感染し、細胞障害性反応を惹起し得るのかの解析に着手した。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品について予定よりも安価に購入できたため
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次年度使用額の使用計画 |
分子生物関連試薬及び消耗品購入に充当する
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