WntシグナルのリガンドであるRSPO1の遺伝子異常家系では両眼性の角膜混濁をおこす。平成29年度までの研究で、RSPO1-KOマウスでは、遺伝子異常家系と同様に角膜混濁をおこし、角膜に炎症を惹起させ、創傷治癒を遅延させることを確認した。さらにこの角膜混濁は角膜上皮下を中心とした沈着物であり、この沈着物にはカルシウムを含むことを証明した。またRSPO1-KOマウスの角膜上皮のみを分離し、抽出したRNAを用いて遺伝子解析を行った結果、S100A8/A9の明らかな発現上昇を確認した。Realtime-PCR法の結果でも、著明な発現上昇を認め(S100A8は96.90倍、S100A9は141.96倍)S100A8/A9がRSPO1の発現に大きく関与していることが示唆された。このS100A8/A9はcalcium-binding proteinの一種で、カルシウムを含んでダイマーを形成する性質があり、ある報告ではタイトジャンクション(TJ)の破綻を生じるということもあり、RSPO1-KOで生じている角膜上皮下および角膜実質浅層への沈着物の発生機序として、TJの破綻により涙液のカルシウムが上皮下にまわりS100A8/A9と複合体を形成しているのではと考えられた。間接免疫染色法を用いて、RSPO1-KOマウス角膜でのS100A8/A9染色では、上皮下および角膜実質の沈着部位で陽性であった。今年度は、S100A9 transgenicマウスを入手し、同マウスでは長期経過により角膜混濁を起こすことを観察した。またこの角膜混濁は、角膜上皮下のカルシウム沈着が関与していることが明らかになった。このことから、S100A8/A9の発現上昇に伴い、タイトジャンクション破綻により涙液より上皮下にまわりこんだカルシウムとともに結合し複合体を形成したもの が沈着しているとの仮説に矛盾しないものとなった。
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