ステロイド誘発鶏胚白内障モデルは、放卵後15日齢の受精卵にヒドロコルチゾンを投与することにより生じる白内障モデルである。その混濁は、ヒドロコルチゾン投与後約20時間後から生じ、48時間後には90%以上で生じる。この水晶体混濁は酸化ストレスによって生じるため、このモデルは抗酸化作用を持つ薬剤のスクリーニングとして有用なモデルであるとともに、その作成や薬剤投与が簡便な優れた実験モデルとされている。薬剤の投与は、半減期が短いものではヒドロコルチゾン投与後に3回(3時間後、10時間後、20時間後行い、半減期の長いものでは、ヒドロコルチゾン投与後に1回(3時間後)投与する。水溶性の薬剤は生理食塩水に溶解し、脂溶性のものはDMSOに溶解して投与する。ヒドロコルチゾン投与後48時間後に解剖を行う。鶏胚を摘出し、角膜輪部に切開を加え水晶体を摘出し、摘出水晶体の混濁の程 度を1~5にスコア化し評価する。また摘出水晶体のチオール活性を測定することによって、水晶体中の還元型グルタチオン量を求める 。
平成31年度はポリフェノール類を中心にいくつかの抗酸化物質を用いて、この実験を行った。フランス産の松皮に含まれるポリフェノール類であるピクノジェノールの投与実験では、ヒドロコルチゾン投与後3時間、10時間、20時間後にピクノジェノールを投与することによって、水晶体混濁が抑制されること、水晶体中の還元型グルタチオンの減少が抑制されることが確認できた。一方、ヒドロコルチゾン投与の3時間前に1回投与、あるいはヒドロコルチゾン投与の3時間後に1回投与では、有意な抑制効果は得られなかった。
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