本研究は、膜の細胞の老化に関わる変化を見ることを目的としている。老化した細胞や培養細胞はDNAレベルでは変化が見られないが、遺伝子中のDNAのメチル化やヒストンクロマチンの構造変化によって、遺伝子機能が変化するエピジェネティカルな変化が起きることが報告されている。しかしながら角膜組織中の細胞についてはこれまでにエピジェネティカルな変化に関する研究は皆無であった。従って、本研究では角膜組織幹細胞を採取し、通常の培養細胞とのエピジェネティクス変化の比較をするために、幹細胞におけるDNA、ヒストン、クロマチンのメチル化異常を調べることを目標とした。更に細胞老化をしていない細胞を用いた角膜再生治療についても動物眼を用いて検討した。初年度は角膜各層からの組織幹細胞の採取ならびに幹細胞の遺伝子発現を調べた。その結果、角膜上皮、実質、内皮からスフェアー法を用いることによりNestinなどの未分化マーカーをに染色される組織幹細胞を採取することに成功した。これらの細胞のメチル化を調べると、通常の培養細胞と比較してメチル化率が高いことが証明された。各遺伝子のメチル化率を調べたところ、細胞を継代して細胞の質が悪くなるほど、増殖に関与する遺伝子のメチル化率が増えることが分かり、細胞老化にエピジェネティカルな変化が関与することが分かった。発現では、メチル化の少ない前駆細胞あるいは組織幹細胞を用いて、上皮、実質、内皮シートを作成した。これらの細胞シートを動物眼(家兎)に移植したところ、通常のメチル化率が高い老化した細胞を使ったシートと比較して、術後の角膜の透明性が維持された。術後に移植した未分化な細胞が細胞の供給源となっている可能性が示唆された。
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