網膜疾患での失明の主要な原因は視細胞変性であり、最終的に神経節細胞や視細胞に分化できる神経網膜前駆細胞株の確立とそれを用いた網膜構成細胞の分化の調節機構の解明が待ち望まれている。視細胞は明暗を感知する杆体視細胞と色覚を担う錐体視細胞とに大別される。これまでに視細胞の発生に関与する多くの転写因子が同定された。 Maf群転写因子 Nrl(neural retina leucine zipper)及び核内受容体 Nr2e3(nuclear receptor subfamily 2,group E,member 3)は杆体視細胞に特異的に発現し、杆体視細胞に特異的な遺伝子発現を活性化、 S錐体に特異的な遺伝子発現を抑制する。ホメオボックス型転写因子CRX (cone-rod homeobox containing gene)はロドプシンをはじめとする網膜特異的遺伝子の発現をもたらす。 我々はマウス ES細胞とiPS細胞から安定した株化網膜前駆細胞を樹立した。その分化機構を本年度は転写因子レベルで解析した。これらの細胞株を用いて杆体視細胞と錐体視細胞を高純度に分化誘導して、それぞれを次世代シークエンサーを用いて各細胞の全転写パターンを分析した。その後、TopHatやCufflinksなどを用いてそれぞれの細胞間の差異を検討して統計的に有意な発現の差異を認める約数十の遺伝子を同定した。現在はそれぞれの発現をRT-PCRと免疫組織染色での解析を始めている。
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